インダストリー5.0とは？【未来を拓く新常識】メリット・事例・日本の戦略を徹底解説！

2025 9/08

2025年6月28日 2025年9月8日

「インダストリー5.0」という言葉を耳にする機会が増えていませんか？「インダストリー4.0なら知っているけど、次は5.0？」と感じる方も多いかもしれません。

実は、インダストリー5.0は単なる技術のアップデートではありません。これは、企業のあり方、私たちの働き方、そして社会全体の未来を左右する、新しい経営哲学なのです。

この記事では、欧州委員会が提唱し、世界が注目するインダストリー5.0の全貌を、誰にでも分かりやすく解説します。

インダストリー4.0との決定的な違い
企業、労働者、社会にもたらされる具体的なメリット
国内外の先進的な導入事例
日本企業がこの変革の波を乗りこなすための戦略

この記事を読めば、不確実な時代を勝ち抜くための新たな羅針盤となる「インダストリー5.0」の本質が理解できるはずです。

ろぼてく

インダストリー4.0も束の間、インダストリー5.0が到来です！

この記事を書いた人

某電機メーカーエンジニア
エンジニア歴10年以上

インダストリー5.0とは？インダストリー4.0との決定的な違い

インダストリー5.0を理解する鍵は、その前身であるインダストリー4.0との比較にあります。

効率追求の4.0、価値創造の5.0

インダストリー4.0は、IoTやAIを活用して工場の自動化と生産効率を極限まで高める「スマートファクトリー」を目指すものでした。しかし、その効率至上主義は、パンデミックによるサプライチェーンの寸断や、地球環境への負荷といった新たな課題を生み出しました。

そこで欧州委員会が2021年に提唱したのがインダストリー5.0です。これはインダストリー4.0を否定するものではなく、その技術基盤を活かしながら、これまで見過ごされがちだった価値を産業の中心に据え直す、いわば**「補完と拡張」**の関係にあります。

その問いの立て方が根本的に異なります。

インダストリー4.0の問い：「この技術で、いかに生産性を最大化するか？」
インダストリー5.0の問い：「この技術で、いかに人間と地球、そして社会全体を豊かにするか？」

インダストリー5.0を支える3つの柱：「人間中心」「持続可能性」「強靭性」

インダストリー5.0は、この新しい問いに答えるため、3つの揺るぎない柱を掲げています。

人間中心（Human-Centric）: テクノロジーは人間を置き換えるものではなく、人間の能力を拡張し、働きがいを高めるためのパートナーであるという考え方です。危険で単調な作業はロボットに任せ、人間は創造性を発揮できる仕事に集中します。
持続可能性（Sustainability）: 産業活動が地球の限界を超えないよう、循環型経済（サーキュラーエコノミー）への移行を目指します。CO2排出削減や廃棄物ゼロを追求し、環境負荷を新たなビジネスチャンスと捉えます。
強靭性（Resilience）: パンデミックや自然災害、地政学的リスクといった予期せぬ危機に直面しても、産業活動やサプライチェーンが機能を維持し、迅速に回復できる能力を指します。生産拠点の分散化や、デジタルツインによるリスクシミュレーションが鍵となります。

日本の「Society 5.0」との違いは？

日本には、内閣府が提唱する「Society 5.0」という類似のコンセプトがあります。両者は「人間中心」という点で共通していますが、対象領域が異なります。

インダストリー5.0: 主に「産業」、特に製造業が対象。
Society 5.0: 医療、交通、農業など「社会全体」を対象とする、より広範な国家ビジョン。

インダストリー5.0は、Society 5.0という大きな社会像を実現するための、産業分野における具体的なアクションプランと位置づけることができます。

なぜ今インダストリー5.0なのか？企業・労働者・社会にもたらすメリット

インダストリー5.0への移行は、企業、労働者、そして社会全体に多面的なメリットをもたらします。

【企業】競争優位性の再構築

生産性と品質の向上: 人間と機械の協働により、両者の長所が最大限に引き出され、生産効率と製品品質が同時に向上します。
人材獲得と定着: 安全で働きがいのある職場は、優秀な人材にとって大きな魅力となり、離職率の低下に繋がります。
企業価値の向上: ESG投資が主流となる中、サステナビリティへの取り組みは企業のブランドイメージと社会的信頼性を高め、企業価値そのものを向上させます。
新たなビジネス機会: 顧客一人ひとりに合わせた製品を提供する「マス・カスタマイゼーション」や、製品をサービスとして提供する「PaaS」など、新たなビジネスモデルが生まれます。

【労働者】働きがいの向上とエンパワーメント

労働環境の改善: 協働ロボットが危険で負担の大きい作業を代替し、労働者はより安全な環境で働けるようになります。
働きがいの向上: 単純作業から解放され、創造性や問題解決能力といった人間にしかできない高付加価値な業務に集中できるようになります。
スキルの向上: 新しい技術を使いこなすためのリスキリング（学び直し）の機会が増え、自身の市場価値を高めることができます。

【社会・環境】持続可能な未来への貢献

SDGsへの貢献: インダストリー5.0の3つの柱は、SDGsの多くの目標（例：目標8「働きがいも経済成長も」、目標12「つくる責任つかう責任」）と直結しています。
環境問題の緩和: 循環型経済への移行は、CO2排出量や資源枯渇といった地球規模の課題解決に大きく貢献します。
社会課題の解決: スマート農業による食料問題の解決や、地方への生産拠点分散による地方創生など、様々な社会課題への貢献が期待されます。

【国内外の事例】インダストリー5.0はもう始まっている！

インダストリー5.0は、すでに世界中の企業で実践されています。

海外の先進事例：シーメンス、BMW

シーメンス（ドイツ）: 自社工場に「デジタルツイン」を導入。仮想空間でのシミュレーションにより生産プロセスを最適化し、生産効率を25%向上させました。AIによる予知保全で設備のダウンタイムも大幅に削減しています。
BMW（ドイツ）: 生産ラインに協働ロボットを導入し、人間とロボットがそれぞれの得意分野を分担。労働者の負担を減らしながら、生産性を高めています。

日本の課題解決型DX：中小企業にこそチャンスあり

日本の、特に中小企業では、壮大な理念からではなく、自社の切実な課題解決のためにDXを進めた結果、インダストリー5.0を体現しているケースが多く見られます。

山本金属製作所（大阪府）: 熟練工の「カン・コツ」をセンサーでデータ化し、技能伝承の課題を解決。さらにそのデータを活用し、無人化された高精度な加工プロセスを目指しています。
グランド印刷（福岡県）: 下請けから脱却し、独自の基幹システムを開発してエンドユーザーへの直接販売に転換。データ分析から次々と新規事業を生み出し、コロナ禍でも過去最高売上を記録しました。
秀和工業（東京都）: 装置の遠隔監視システムを開発し、技術者の緊急出動を7割削減。労働環境を大幅に改善すると同時に、災害時でも事業を継続できる強靭性を確保しました。

これらの事例は、「人手不足」「技能伝承」「厳しい労働環境」といった身近な課題の解決こそが、日本型インダストリー5.0への第一歩であることを示しています。

日本企業がインダストリー5.0の時代を勝ち抜くための戦略

この大きな変革の中で、日本企業、特に中小企業はどうすればよいのでしょうか。

強みである「モノづくり」と「課題先進性」を活かす 日本の高品質な「モノづくり」の現場力に、デジタル技術を掛け合わせることが重要です。また、少子高齢化や労働力不足といった「課題先進国」としての経験は、世界の未来の課題を解決するソリューションを生み出すチャンスになります。
まずは自社の課題解決から始める「課題解決型DX」 欧州の巨大企業のように壮大なビジョンを掲げる必要はありません。まずは自社の「困りごと」を特定し、それを解決するためにデジタル技術を活用することから始めましょう。経済産業省などが提供する「スマートマニュファクチャリング構築ガイドライン」や各種支援策（IT導入補助金など）を参考に、全体最適を目指すことが成功の鍵です。
経営トップの強いコミットメント インダストリー5.0への変革は、現場任せでは成功しません。従来の成功体験への固執や部門間の壁を乗り越えるには、経営トップが変革のビジョンを明確に示し、全社で共有することが不可欠です。