「新しい装置のモーター制御、サーボとインバータ、どっちを選べばいいんだろう?」 「なんとなくサーボは高精度で、インバータは省エネ、というイメージだけど、具体的に何が違うの?」
ファクトリーオートメーション(FA)の世界にいると、誰もが一度はこの疑問にぶつかります。この二つは、どちらもモーターを制御するための重要な機器ですが、その役割と得意なことは全く異なります。
間違った選択をしてしまうと、「精度が出なくて製品が不良品に…」「オーバースペックで無駄なコストをかけてしまった…」なんてことにもなりかねません。
この記事では、サーボドライブとインバータの根本的な違いから、具体的な性能比較、コスト、そしてあなたのアプリケーションに最適なのはどちらかを見極めるための「究極の質問」まで、徹底的に解説します。
この記事を読み終える頃には、あなたはもうサーボとインバータの選定で迷うことはなくなるでしょう。


一見するとどちらもモータでしょ?という感じですが、その違いを説明していきます。
- 某電機メーカーエンジニア
- エンジニア歴10年以上


■ 一目でわかる!サーボとインバータ、その本質的な違い
まず、結論からお伝えします。両者の最大の違いは、その「使命」にあります。
- サーボドライブ:指令に絶対服従する「超精密な位置決め役者」
- 使命: 上位コントローラからの「この位置まで、この速さで動け」という指令に対し、1ミクロンのズレもなく、極めて忠実に動きを再現すること。
- キーワード: 位置決め、同期、高応答、協調動作
- インバータ:効率最優先の「賢い速度マネージャー」
- 使命: モーターを「指定された速度で、最も効率よく」回し続けること。特に省エネが得意。
- キーワード: 速度制御、省エネルギー、安定稼働
例えるなら、サーボはロボットアームの関節のように、ミリ秒単位で複雑な動きを正確にこなすフィギュアスケート選手。一方、インバータは工場の巨大な換気扇を、無駄なエネルギーを使わずに安定して回し続けるマラソンランナーです。目的が全く違うことがお分かりいただけると思います。
■【性能比較】位置・速度・パワー、どれくらい違うの?
イメージだけでなく、具体的な性能(スペック)で比較してみましょう。その差は歴然です。
性能指標 | 高性能サーボシステム | 高性能インバータシステム | ポイント |
位置決め精度 | サブミクロン単位 (例: ±0.3µm) | mm単位(エンコーダ次第) | 桁違いの差。 サーボは超高分解能エンコーダで常に現在位置を監視。 |
応答性 (速さ) | 非常に速い (速度周波数応答 3.5kHz) | 比較的穏やか | サーボは急な加減速が超得意。装置のタクトタイム短縮に直結。 |
パワー (瞬発力) | 定格の約300% | 定格の約150% | サーボは「火事場の馬鹿力」で重いものも素早く動かせる。 |
得意なモーター | サーボモーター (PM同期モーター) | 汎用誘導モーター | 専用設計のサーボモーターと汎用モーターの違いも大きい。 |
位置決め精度がなぜこれほど違うのか?それは、サーボがモーターに直結された超高分解能エンコーダという「監視役」からのフィードバックを常に受けているからです。「今、目標から0.01mmズレた!」と検知すれば、即座に修正動作に入ります。この閉ループ(クローズドループ)制御が、サーボの精度の根幹です。
一方、インバータは基本的にモーターを回しっぱなしにする開ループ(オープンループ)が基本。高性能なインバータではエンコーダを追加して精度を上げることもできますが、サーボの精密さには及びません。
■ どんな時にどっちを使う?具体的な使い分け事例
では、実際の現場ではどのように使い分けられているのでしょうか。
サーボの出番:精度と連携が命!
サーボは、複数の動きが連携し、複雑な軌道を描く「協調動作」が必須の場面で真価を発揮します。
- CNC工作機械: 工具と材料をミクロン単位で正確に動かし、設計通りの形に削り出す。
- 産業用ロボット: 各関節のサーボが連携し、狙った位置へ正確にアームを動かす。
- 半導体製造装置: 小さなチップを高速かつ正確に基板へ実装する。
これらのアプリケーションでは、わずかな位置ズレが製品の品質を致命的に損なうため、サーボ以外の選択肢は考えられません。
インバータの出番:省エネと安定性が最優先!
インバータは、連続的な回転運動の速度を効率的に制御したい場面で大活躍します。
- ポンプ・ファン・空調: インバータの独壇場です。 モーターの回転数を必要な分だけ下げることで、劇的な省エネ効果が得られます。消費電力は回転数のほぼ3乗に比例するため、回転数を20%下げるだけで、消費電力は約半分((0.8)^3 ≒ 0.51)になります。
- コンベア: 滑らかな起動・停止で荷崩れを防いだり、生産量に応じて搬送速度を調整したりする。
これらの用途では、ミクロン単位の位置決めは不要で、むしろ安定した運転とランニングコストの削減が重視されます。
■【重要】選定で迷ったら、この「究極の質問」に答えよう!
「うちの装置は、サーボとインバータのどっちだろう…」 もしあなたが選定で迷ったら、自分自身にこのたった一つの質問をしてみてください。
「複数の軸が、数学的に関連付けられた軌道を描いて動く必要があるか?」
- 答えが「YES」の場合 → 迷わずサーボを選びましょう。 ロボットアームのように、複数のモーターが連携して一つのタスク(円を描く、直線を引くなど)を行うなら、それはサーボシステムの領域です。
- 答えが「NO」の場合 → インバータ(または高性能インバータ)を検討しましょう。 各モーターが独立して動くだけ(A地点からB地点へ移動して停止、など)で、軸同士の複雑な連携が不要なら、インバータで十分な可能性があります。特に、単純な位置決めであれば、高性能なインバータがコスト効率の良い解決策になる「グレーエリア」も存在します。
■ コストの話:「安物買いの銭失い」を避けるために


一般的に、初期投資はサーボシステムの方がインバータシステムの3〜4倍高価になります。専用設計の高性能モーターやアンプが必要になるためです。
この事実だけを見るとインバータを選びたくなりますが、ここで**「TCO(総所有コスト)」**の視点が重要になります。
- CNC工作機械の例: 初期投資で数万円をケチってインバータを使い、数十万円の加工部品を不良品にしてしまったら?これは典型的な「安物買いの銭失い」です。ここではサーボの「性能」そのものが価値を生みます。
- ポンプの例: インバータの高い省エネ効果により、数年で初期投資を回収し、その後は利益を生み出し続けます。
「性能不足がもたらす機会損失」や「省エネによる運用コスト削減」まで含めて、トータルでどちらが経済的かを判断することが、賢いエンジニアの選択です。
■ まとめ:優劣ではなく「適材適所」。最適な選択で最高のパフォーマンスを


サーボドライブとインバータの違いを、様々な角度から解説してきました。
- サーボは、位置・速度・トルクを指令通りに精密制御するためのシステム。高精度・高応答な協調動作が求められる場面で必須。
- インバータは、モーターの速度を効率的に可変制御するための装置。省エネと安定稼働が求められる連続運転で真価を発揮。
両者に優劣はなく、まさに「適材適所」です。
あなたの装置が求めるのは、ミクロン単位の精度と俊敏な動きですか?それとも、安定した運転とエネルギー効率ですか?
この記事で紹介した「究極の質問」と性能比較表を武器に、あなたのプロジェクトに最高のパフォーマンスをもたらす、最適な一台を選び抜いてください。



それぞれの特長を生かして使い分けをしましょう。
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