PROFINET IRT:RTとの違いからTSNとの未来まで【2025年最新版】

「ファクトリーオートメーションのネットワーク、どれを選べばいい?」「PROFINETのRTとIRTの違いがよくわからない…」

そんな悩みを抱えるFAエンジニアやシステム設計者の皆様へ。本記事では、産業用イーサネット市場をリードするPROFINET、その中でも特に高性能な**PROFINET IRT (Isochronous Real-Time)**に焦点を当て、その全貌を徹底的に解説します。

この記事を読めば、以下の点が明確になります。

  • PROFINETがなぜ市場で選ばれているのか
  • PROFINET RTとIRTの決定的かつ具体的な違い
  • IRTが真価を発揮するアプリケーションと、対応するサーボドライブ製品
  • 次世代技術「PROFINET over TSN」との関係性と未来展望

あなたの工場の生産性を最大化するための、最適なネットワーク選定の一助となれば幸いです。

ろぼてく

PROFINETの概要とRT/IRTの違いがわかります!

目次

なぜPROFINETが選ばれるのか?市場シェアから見るその実力

まず、PROFINETが産業用ネットワーク市場でどのような位置にいるのかを見てみましょう。HMS Networks社の調査によると、産業用イーサネットは市場の主流となり、2024年に新規設置されたノードの76%を占めています 。  

その中でもPROFINETはリーダーとしての地位を確立し、市場シェアを拡大し続けています。2025年には新規ノードの27%を獲得すると予測されており、EtherNet/IP(23%)やEtherCAT(17%)といった競合プロトコルをリードしています 。この数字は、PROFINETが提供する性能、柔軟性、そしてオープンなエコシステムが世界中の工場で高く評価されている証拠です。  

表1: 産業用イーサネット市場シェアの推移(新規設置ノード、2022年~2025年)

プロトコル2022年シェア2023年シェア2024年シェア2025年シェア(予測)出典
PROFINET17%18%23%27%  
EtherNet/IP17%18%21%23%  
EtherCAT11%12%16%17%  
Modbus TCP6%5%4%4%  
その他4%以下4%以下  

注: 2023年以前のデータは過去のHMSレポートに基づいています。2024年および2025年のデータは、異なる出典で年表記に揺れがあるため(2024年発表の2023年実績と2024年予測、あるいは2025年発表の2024年実績と2025年予測)、最新のトレンドとして統合しています。

PROFINETの2つの顔:RTとIRTの違いを徹底解説

PROFINETには、性能要件に応じていくつかの通信方式がありますが、特に重要なのが**PROFINET RT (Real-Time)PROFINET IRT (Isochronous Real-Time)**です。この2つの違いを理解することが、適切なネットワーク設計の鍵となります。

結論から言うと…

  • PROFINET RT: 「リアルタイム」通信。一般的なFA(ファクトリーオートメーション)やプロセス制御など、ほとんどのアプリケーションの要求を満たします。PROFINETネットワークの大部分は、このRTで構成されています 。  
  • PROFINET IRT: 「等時性リアルタイム」通信。複数のサーボモーターが完全に同期して動く必要がある、極めて高性能なモーションコントロール専用です 。これはオプション機能であり、特別なハードウェアが必要です 。  

何が違うのか?技術的な仕組み

両者の最大の違いは、「決定論(決まった時間にデータが届くこと)」をどう保証するかにあります。

  • PROFINET RTは、イーサネットフレームに優先度を付け、TCP/IP層をバイパスすることで通信を高速化します 。しかし、ネットワークの負荷が高まると、通信タイミングに多少の「ゆらぎ(ジッター)」が発生する可能性があります。また、各デバイスは同期していないため、精密な協調動作には向きません 。  
  • PROFINET IRTは、RTの仕組みに加え、**ハードウェアベースのタイムスロット方式(TDMA)**を導入します 。通信サイクル内に「IRT専用レーン(レッドフェーズ)」を予約し、他の通信に邪魔されないようにします 。さらに、ネットワーク内の全デバイスの時計を1マイクロ秒(µs)未満の精度で同期させることで、完璧な協調動作を実現します 。  

この違いは、性能やコストに直結します。

表2: PROFINET RTとPROFINET IRTの技術比較

特徴PROFINET RTPROFINET IRT
主要アプリケーション一般的なFA、プロセス制御高速同期モーションコントロール
サイクルタイム250 us ~ 512 ms  最短 31.25 us
ジッター高負荷時に変動あり  1us 未満を保証  
同期不要(非同期ローカルクロック)  必須(PTCPによるクロック同期)  
ハードウェア要件標準イーサネットコントローラ  専用ASIC/FPGA(IRTスイッチ内蔵)  
Conformance ClassCC-A, CC-B  CC-C のみ  
トポロジー制約制限なし(ライン、スター、ツリー、リング)  IRTデバイスは連続したドメインに配置必須  
無線通信サポートあり(Wi-Fi, Bluetooth)  なし(変動レイテンシのため)  

PROFINET IRTが輝く瞬間 – 主なアプリケーション

では、具体的にどのような場面でIRTの超高性能が必要とされるのでしょうか?それは、複数の軸がマイクロ秒レベルの精度で同期して動くことが求められる、以下のようなアプリケーションです 。  

  • 包装機械 (ピック&プレース、製袋充填シール機など)  
  • 印刷機  
  • ロボティクスおよび多軸ハンドリングシステム  
  • CNC、木材、ガラス、セラミック加工機  
  • プラスチック射出成形機  

これらの機械では、IRTが提供する高精度な同期と決定論的な通信が、生産品質の向上とタクトタイムの短縮に直接貢献します。

IRT対応は必須チェック!主要サーボドライブ徹底比較

IRTシステムを構築する上で最も重要なのが、サーボドライブのIRT対応状況です。単に「PROFINET対応」と書かれているだけでは不十分で、「IRT (Conformance Class C)」をサポートしているかを確認する必要があります。

以下に、主要なサーボドライブベンダーの対応状況をまとめました。

表3: PROFINET IRTサーボドライブ互換性マトリクス

メーカー製品シリーズPROFINET IRT サポート状況主要な注記 / 根拠
SiemensSINAMICS S200, S210, S120ネイティブ & 完全サポートPROFINETの主要開発元として、モーションコントロール製品群全体で包括的なネイティブIRTサポートを提供。接続はクロック同期PROFINET IRTを介して行われ、TIA Portalでのトポロジーと同期ドメインの定義が必要 。  
SEW-EURODRIVEMOVI-C Movidrive (MDX90/91) with CFN21Aネイティブ & 完全サポートCFN21AインターフェースはPROFINET RTとIRT、Conformance Class C、Netload Class 3を明確にサポートしており、高度な統合レベルを示す 。  
BeckhoffAX5000, AX8000 シリーズゲートウェイ経由でサポートBeckhoffの戦略はEtherCATをドライブバスの中核とすること。PROFINET IRT接続は、PCベースコントローラにPROFINET IRT コントローラターミナル (EL6632/EL6634) を使用して実現。ドライブ自体はPROFINETに直接対応しない 。  
Mitsubishi ElectricMELSERVO MR-J4-TMRTのみ。IRTは非対応。資料では一貫して「PROFINET IO REAL TIME (RT)」と明記。高速な250µs通信サイクルを謳うが、等時性同期やIRT特有の機能に関する言及はない 。同期モーションには不適。  
YaskawaAC Drive Options (SI-EP3など)RTのみ。IRTは非対応。SI-EP3の技術マニュアルには、RTチャネルをサポートするが「Isochronous Real Time (IRT) channel… is not implemented」と明確に記載されている 。  
Rockwell Automation / Allen-BradleyKinetix, PowerFlex シリーズRTのみ(ゲートウェイ経由)。IRTは非対応。RockwellのネイティブプロトコルはEtherNet/IP 。PROFINET接続はILX56-PNDのようなゲートウェイモジュールを介して提供され、これは「PROFINET RT」をサポートし、Conformance Class Bに認定されている 。  
Bosch RexrothctrlX DRIVERTのみ。IRTは明確に非対応。公式コミュニティフォーラムとドキュメントにおいて、ctrlX DRIVEはPROFINET RTをサポートするが、PROFINET IRTはサポートしないと明言されている 。  
Lenzei950 Cabinet Servo InverterRTのみの可能性が高いデータシートには「PROFINET」と記載されているが、IRTやConformance Class Cの指定はない 。他社の傾向からRTサポートである可能性が非常に高い。  
FANUCRobotics ControllersRTサポートが主FANUCロボットはPROFINETの主要なアプリケーション 。通常、PLC制御ラインへの統合のためにPROFINET RT (Conformance Class B) オプションが提供される。IRTサポートは標準ではなく、特定のアプリケーションに依存する。  

この表からわかるように、ネイティブでIRTをサポートしているのは、PROFINETを自社の中核戦略に据えるSiemensやSEW-EURODRIVEです。一方で、EtherNet/IPを推進するRockwellや、EtherCATを主軸とするBeckhoffなどは、相互接続性のためにRTのみをサポートし、IRTには対応していません。このベンダー戦略の違いは、システム設計における重要な判断材料となります。

IRTの進化と未来 – V2.3の性能向上とTSNへの道

PROFINET IRTは常に進化しています。特に重要なバージョンアップと、未来の技術について見ていきましょう。

PROFINET V2.3: $31.25 \mu s$ を実現した「パフォーマンスアップグレード」

PROFINET V2.3では、IRTの性能を劇的に向上させる**「Dynamic Frame Packing (DFP)」**という技術が導入されました 。  

これは、ライントポロジーに接続された複数のデバイスへのデータを1つの大きなフレームにまとめ、各デバイスが自分のデータだけを「切り取って」残りを次のデバイスへ転送する仕組みです 。これにより帯域幅の利用効率が飛躍的に向上し、  

サイクルタイムを最短31.25 usまで短縮することが可能になりました 。  

PROFINET V2.4と未来の技術「TSN」

最新仕様のV2.4では、次世代の決定論的通信技術として**「PROFINET over TSN」**が導入されました 。  

  • TSN (Time-Sensitive Networking) とは? TSNは、標準イーサネット(IEEE 802)自体に、時刻同期や帯域予約といったリアルタイム通信機能を追加する規格群です 。  
  • IRTとTSNの違いは?
    • IRT: PROFINET専用のハードウェア(ASIC)を使って実現する、いわば「PROFINET専用の高速道路」です 。  
    • PROFINET over TSN: 標準化されたTSN対応のイーサネットハードウェア上でPROFINETを動かします。これは、PROFINETだけでなく、OPC UAなど他のリアルタイムプロトコルも相乗りできる「共有の高速道路」のようなものです 。  
  • PIの公式見解:TSNはIRTを置き換えない PROFIBUS & PROFINET International (PI) は、TSNがIRTを置き換えるものではなく、共存する追加オプションであると明確に述べています 。既存のIRTは引き続きサポートされ、ユーザーは将来的にTSNベースの、よりオープンで柔軟なネットワークへスムーズに移行できるようになります 。  

まとめ:あなたの工場に最適なPROFINETは?

今回の調査から、PROFINET IRTは非常に高性能かつ実績のある技術ですが、その選択は慎重に行うべきであることがわかりました。最後に、FAエンジニアの皆様への実践的な提言をまとめます。

  1. IRTを選ぶべき時 アプリケーションが複数の軸の完全な同期(等時性)を必要とし、かつ250 us未満のサイクルタイムマイクロ秒レベルのジッターが求められる場合に限定されます。それ以外の一般的なI/O制御や単軸の位置決めでは、PROFINET RTが最もコスト効率が高く、柔軟な選択肢です。
  2. IRTネットワーク設計の注意点
    • コントローラ、デバイス、スイッチなど、IRTドメイン内のすべての機器がConformance Class Cに対応していることを確認してください。
    • IRTドメインは、非IRTデバイスによって中断されないように物理的に連続して接続する必要があります。
    • 特定のベンダー(特にSiemens)のエコシステムに依存する可能性が高いことを認識しておきましょう。
  3. 未来を見据えて 新規の工場建設や大規模な設備更新を計画している場合は、PROFINET over TSNの動向を注視することをお勧めします。TSNは、異なるプロトコルが共存できる「コンバージェンス(統合)」を実現し、よりオープンで将来性のあるネットワークアーキテクチャへの道を開きます。

今日の最高性能はIRTによってもたらされますが、明日のスマートファクトリーの基盤はTSNが担っていくでしょう。PROFINETの知識への投資は、どちらの未来においても価値あるものとなります。

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この記事を書いた人

現役エンジニア 歴12年。
仕事でプログラミングをやっています。
長女がスクラッチ(学習用プログラミング)にハマったのをきっかけに、スクラッチを一緒に学習開始。
このサイトではスクラッチ/プログラミング学習、エンジニアの生態、エンジニアによる生活改善について全力で解説していきます!

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