「機械の安全性を高めたいけど、何から手をつければいいかわからない」
「機能安全って言葉は聞くけど、STOやSS1、SLSって何が違うの?」
「安全性を高めると、生産性が落ちるんじゃないか…」
工場の自動化やロボット導入を進める上で、このような悩みを抱えていませんか?かつて「機能安全」は、規制を守るためのコストと捉えられがちでした。しかし、今やその考え方は大きく変わっています。最先端の機能安全は、””作業者の安全を守るだけでなく、機械のダウンタイムを劇的に削減し、生産性を飛躍的に向上させる「攻めのツール」””へと進化しているのです 。
この記事では、複雑で難解に思われがちなサーボドライブの機能安全について、その基本から、あなたの現場に最適な製品を選ぶための具体的な方法まで、どこよりも分かりやすく解説します。この記事を最後まで読めば、以下のメリットが得られます。
- 機能安全の重要性と、それが生産性向上に直結する理由がわかります。
- STO、SS1、SLSといった必須の安全機能の違いと、それぞれの具体的なメリットが理解できます。
- 三菱電機、安川電機、Siemensなど、国内外の主要14メーカーそれぞれの特徴と戦略が把握できます。
- 自社のアプリケーションに最適なサーボドライブを選ぶための、具体的な選定基準が手に入ります。

機能安全はもはやサーボドライブのデファクトになりつつあります。
- 某電機メーカーエンジニア
- エンジニア歴10年以上


第1章:なぜ今、サーボドライブの「機能安全」が重要なのか?
人手不足の現状では、製造現場では人とロボットがすぐ近くで協働する機会が急増しています 。このような環境では、万が一の事態を防ぐ高度な安全対策が不可欠です。しかし、機能安全の本当の価値は、単なる事故防止に留まりません。それは「生産性の向上」にあります。例えば、従来は安全柵を開けるたびに機械を完全に停止させ、再起動に時間を要していました。しかし、最新の機能安全を使えば、機械を低速で動かし続けたまま、安全に作業ができます 。これにより、段取り替えやメンテナンスにかかる時間が大幅に短縮され、機械の稼働率が劇的に向上するのです。安全はもはやコストではなく、競争力を生み出すための戦略的な投資となっています。



例えば人が装置内に立ち入った場合には、装置の速度を安全に低下させるなどの使い方があります。
第2章:これだけは押さえたい!機能安全の基本用語(STO, SS1, SLS)


機能安全を理解する上で、国際規格IEC 61800-5-2で定められたいくつかの重要な機能を知っておく必要があります 。ここでは、特に重要な3つの機能とそのメリットを分かりやすく解説します。
- STO (安全トルク遮断): これは最も基本的かつ重要な安全機能です。作動すると、モーターへの電力供給を瞬時に遮断し、トルクを発生できなくします 。従来の電磁接触器(コンタクタ)が担っていた機能をサーボアンプ内部で実現するため、コスト削減、省スペース、そして高速な応答という大きなメリットがあります 。多くのメーカーがこの機能を標準搭載しています。
- SS1 (安全停止1): STOがモーターを惰性で停止させるのに対し、SS1はモーターを能動的に減速させてから停止させ、その後にSTO状態へ移行する機能です 。高慣性の負荷を扱う機械や、複数の軸が同期して動く生産ラインなどで特に有効です。急停止による製品のズレや機構の破損を防ぎ、製品ロスを減らし、スムーズな生産再開をサポートします。
- SLS (安全制限速度): この機能は、機械の速度が予め設定した安全なレベルを超えないように監視します 。これにより、作業者は機械を完全に止めることなく、保護扉を開けて内部の調整や清掃、簡単なメンテナンスを行うことができます 。結果として、機械のダウンタイムが最小限に抑えられ、生産性が大幅に向上します。まさに「止めない安全」を実現する、現代の製造現場に不可欠な機能と言えるでしょう。



STO、SS1は多くのサーボドライブに搭載されていますね。多くのメーカーのSTO機能は非常停止用というより、不慮の再起動防止の意味合いが強いです。
第3章:【徹底比較】主要サーボドライブメーカー14社の特徴と戦略
サーボドライブ市場は、グローバルシェアNo.1を誇る安川電機や、総合FAメーカーとして強固な顧客基盤を持つ三菱電機といった日本の巨頭が市場をリードしています 。これに、統合ソリューションで欧州市場を席巻するSiemensや、北米で絶大な影響力を持つRockwell Automationが続きます 。ここでは、各社の機能安全に対するアプローチと戦略の違いを明らかにします。
- 統合エコシステムで勝負するメーカー (Siemens, Rockwell, 三菱電機): これらのメーカーは、サーボドライブ単体ではなく、PLC、HMI、ネットワーク、そして開発ソフトウェアまでを一つのパッケージとして提供する「統合プラットフォーム」戦略を採っています。Siemensの「TIAポータル」やRockwellの「Studio 5000」、三菱電機の「iQ-R Platform」は、モーション制御と安全制御をシームレスに統合し、開発工数の大幅な削減を実現します。このアプローチは、特に大規模で複雑なシステムを構築する際に絶大な威力を発揮します。
- モーション性能を追求するスペシャリスト (安川電機, コルモルゲン): ACサーボのパイオニアである安川電機は、3.5kHzという業界最高レベルの速度応答周波数と、i³-Mechatronicsコンセプトによるデータ活用を強みとしています 。コルモルゲンも同様に、最高のモーション性能を追求するスペシャリストです。これらのメーカーは、オープンなネットワーク規格(FSoEなど)を採用し、様々な制御システムに柔軟に組み込めることを重視しています。 ※安川電機のFSoEはオプションユニットをつけての対応になります。
- コストパフォーマンスで市場を拓く挑戦者 (Delta, Inovance): 台湾のDeltaや中国のInovanceといったアジアの新興勢力は、コストパフォーマンスに優れた製品で急速にシェアを伸ばしています 。特に、規制の厳しい欧州市場への参入の足がかりとして、基本的な安全機能であるSTOを認証取得済みの製品に搭載し、信頼性と価格競争力を両立させる戦略で、中価格帯市場での存在感を高めています。



各社それぞれ機能安全にも特徴がありますね!
第4章:あなたの現場に最適!アプリケーション別おすすめメーカー選定ガイド
自社のアプリケーションに最適なサーボドライブを選ぶには、何を最優先すべきかを見極めることが重要です。ここでは、4つの代表的なシナリオごとにおすすめのメーカーをご紹介します。
- シナリオ1:とにかく速く、正確に!高速・高精度なロボットやCNC加工機
- 推奨メーカー: 安川電機, 三菱電機, コルモルゲン
- 選定理由: これらの用途では、サーボの応答性や位置決め精度が製品品質に直結します。業界最高水準のモーション性能を誇るこれらのメーカーは、機械のポテンシャルを最大限に引き出したい場合に最適です 。
- シナリオ2:多数の軸が連携する、複雑な大規模生産ライン
- 推奨メーカー: Siemens, Rockwell Automation
- 選定理由: 自動車や包装機械のラインのように、多くの機器が複雑に連携するシステムでは、個々の部品性能より全体のエンジニアリング効率が重要です。開発から検証までを単一のソフトウェア環境で完結できるこれらのメーカーのプラットフォームは、開発期間の短縮と信頼性の向上に大きく貢献します 。
- シナリオ3:人と機械が隣り合わせで作業する、協働アプリケーション
- 推奨メーカー: オムロン, Bosch Rexroth, B&R
- 選定理由: 人との協働が前提となる現場では、SLS(安全制限速度)やSLP(安全制限位置)といった、機械を止めずに安全を確保する高度な機能が不可欠です。これらのメーカーは、「生産性を高める安全」をコンセプトに、人間との安全な協調作業を実現する豊富な機能を提供しています 。
- シナリオ4:コストを抑えつつ、基本的な安全を確保したい汎用的な自動化
- 推奨メーカー: Delta, Inovance, 富士電機, パナソニック
- 選定理由: 全ての機械が最高レベルの安全機能を必要とするわけではありません。基本的なSTO機能で十分な場合、これらのメーカーは非常にコスト効率の高いソリューションを提供します 。特に富士電機のように、必要な機能だけをモジュールで追加できる方式は、コストの最適化に繋がります。
まとめ:機能安全は「守り」から「攻め」の経営ツールへ


本記事では、サーボドライブの機能安全が、単なる規制対応の枠を超え、いかにして生産性向上と競争力強化に貢献するかを解説しました。
- 機能安全は、ダウンタイムを削減し、機械の稼働率を高めるための強力なツールです。
- STO、SS1、SLSといった基本機能を理解することで、自社の課題解決に繋がる機能が見えてきます。
- 各メーカーの戦略(統合エコシステム vs モーション特化)を把握することで、自社の思想に合ったパートナー選びが可能になります。
- アプリケーションの要求から逆引きすることで、最適なサーボドライブを合理的に選定できます。
サーボドライブの機能安全は、今後もAIやデジタルツインとの融合により、さらに進化を続けていくでしょう。この変化の激しい時代において、機能安全を正しく理解し、戦略的に活用することこそが、あなたのビジネスを次のステージへと導く鍵となります。まずは、今回ご紹介したメーカーのウェブサイトを訪れたり、代理店に相談したりして、具体的な一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。



今や機能安全は工場において必須ともいえる存在です。上手く使うことで収益アップにもつなげることができます!
コメント