「このサーボドライブ、本当にEtherNet/IPで同期モーションができるの?」
ファクトリーオートメーション(FA)の現場で、EtherNet/IP対応のサーボドライブを選定する際、このような疑問や不安を感じたことはありませんか?製品カタログに「EtherNet/IP対応」と記載されていても、それが自社の求めるパフォーマンス、特に高性能な多軸同期モーションを実現できるとは限りません。この「対応」という言葉の裏には、メーカーごとに大きく異なる設計思想と技術的な実装レベルが存在します。
本記事は、FAエンジニア、システムインテグレータ、そして最適なオートメーションシステムを構築しようとする全ての技術者の方々に向けて、サーボドライブのEtherNet/IP対応の「真実」を解き明かすための徹底ガイドです。
数多くの公式技術資料やマニュアルを横断的に分析し、単なるスペック比較に留まらない、以下の核心的な情報を提供します。
- 「ネイティブ対応」の落とし穴:サーボドライブが直接ネットワークに接続されるアーキテクチャと、コントローラを介するアーキテクチャの違い。
- メーカーの戦略思想:なぜ日本のメーカーはEtherCATを重視し、Rockwell Automationは単一ネットワークにこだわるのか。
- CIP拡張機能の重要性:CIP Motion、CIP Sync、CIP Safetyがシステムの性能と価値をどう決定づけるか。
この記事を最後まで読めば、あなたは各メーカーの戦略を深く理解し、自社のプロジェクトに真に最適なサーボドライブを、自信を持って選定できるようになるでしょう。

Ethernet/IPで同期モーション(CIP Motion)ができるものはRockwell以外ほぼ選択肢がないと思われます。
- 某電機メーカーエンジニア
- エンジニア歴10年以上


簡単まとめ
サーボドライブ EtherNet/IP 対応状況: 技術戦略インフォグラフィック
アーキテクチャの大分岐
現代のFAシステムにおけるサーボ制御は、二つの根本的に異なる設計思想に大別されます。この選択は、システムの性能、柔軟性、そして保守性全体を決定づけます。
統合ネットワークアーキテクチャ
PLC / モーションコントローラ
単一のEtherNet/IPネットワーク
モーション、安全、I/Oを全て統合
サーボドライブ A
サーボドライブ B
安全I/O
汎用I/O
特徴:
- シンプル: 配線とネットワーク管理を簡素化。
- 統合的: 単一のソフトウェアで全体を管理。
- 課題: ネットワーク輻輳が性能に影響する可能性。
- 主導: Rockwell Automation
デュアルバスアーキテクチャ
PLC / モーションコントローラ
EtherNet/IP
情報・安全通信
専用モーションバス
(EtherCAT, MECHATROLINK)
上位システム / HMI
ドライブA
ドライブB
特徴:
- 高性能: モーション通信が分離され性能を保証。
- 堅牢: 上位ネットワークの負荷に影響されない。
- 課題: 構成が複雑化、コントローラがボトルネックに。
- 主導: オムロン、安川電機など日本の主要メーカー
市場アーキテクチャの採用状況
市場は、どちらか一方のアーキテクチャに偏っているわけではありません。多くのメーカーは、自社の強みやターゲット市場に応じて、統合型、デュアルバス型、あるいはその両方の要素を取り入れたハイブリッドな戦略を採用しています。
分析対象の主要メーカーに基づいたアーキテクチャ分類の概算比率。
CIPプロトコルを解読する
「EtherNet/IP対応」は始まりに過ぎません。真の価値は、高度なCIP (Common Industrial Protocol) 拡張機能のサポートにあります。これらがシステムの能力を決定します。
CIP Safety™
安全信号を標準ネットワークで伝送。配線を劇的に簡素化し、診断を容易にします。システムの安全度水準 (SIL/PLe) をソフトウェアで管理可能にします。
CIP Sync™
高精度な時刻同期 (IEEE 1588) を実現。ネットワーク上の全デバイスがマイクロ秒レベルでクロックを共有し、決定論的な協調動作の基盤となります。
CIP Motion™
高性能な多軸同期モーション制御の頂点。サーボループをドライブ側で閉じ、コントローラの負荷を軽減。複雑な補間や電子カムを容易に実現します。
CIP拡張機能のサポートレベル比較
メーカー各社のCIP拡張機能への対応は一様ではありません。完全な統合スイートを提供するリーダーから、特定の機能に特化する戦略的プレイヤーまで様々です。
各メーカーの公開情報に基づき、CIP Motion(3pt), Safety(2pt), Sync(1pt)のサポート状況をスコア化。スコアが高いほど統合レベルが高いことを示す。
アーキテクトの選択ガイド
あなたのプロジェクトに最適なアーキテクチャは?主要な要求事項から最適なアプローチを見つけましょう。
あなたの最優先事項は?
最大限の統合と
単一ネットワークのシンプルさ
モーション性能の
絶対的な保証と分離
認証済みネットワーク安全
(CIP Safety) が必須
推奨アプローチ:
統合ネットワークアーキテクチャ
Rockwell Automation
(Kinetixシリーズ)
推奨アプローチ:
デュアルバスアーキテクチャ
Omron, Yaskawa, etc.
(EtherCAT/MECHATROLINKベース)
推奨アプローチ:
安全機能特化型
Bosch Rexroth, Emerson
(CIP Safety認証製品)
第1章:なぜ「ネイティブEtherNet/IP対応」の確認だけでは不十分なのか?


サーボドライブの選定において、仕様書に「EtherNet/IP対応」と記載されていることを確認するだけでは、残念ながら不十分です。なぜなら、その「対応」の仕方には、システムの性能や構成を根本から左右する、大きく分けて2つのアーキテクチャが存在するからです。この違いを理解することが、適切な製品選定の第一歩となります。
一つは、サーボドライブ自体が固有のIPアドレスを持ち、ネットワーク上の独立したノードとして機能する**「統合ネットワークアーキテクチャ(ネイティブドライブ対応)」**です。この方式は、PLCやモーションコントローラと各サーボドライブが、同じEtherNet/IPネットワーク上で直接通信します。配線がシンプルになり、システム全体を単一のネットワークで管理できるというメリットがあります。
もう一つは、PLCやモーションコントローラが「ゲートウェイ」の役割を果たす**「デュアルバスアーキテクチャ(コントローラ経由対応)」**です。この方式では、コントローラが上位のEtherNet/IPネットワークと、サーボドライブが接続された専用の高速モーションバス(例:EtherCAT、MECHATROLINK)との橋渡しをします。この場合、サーボドライブはEtherNet/IPネットワークから直接は見えず、あくまでモーションバス上のデバイスとして存在します。
このアーキテクチャの違いは、単なる接続方法の違いではありません。システムのリアルタイム性、同期精度、拡張性、そして開発・保守の容易性にまで大きな影響を及ぼします。したがって、「EtherNet/IP対応」という言葉の裏にあるアーキテクチャを理解せずして、最適なドライブ選定はあり得ないのです。
第2章:アーキテクチャの大分岐 – 「統合」か「分離」か、メーカーの戦略を読む


FA業界におけるサーボドライブのネットワーク戦略は、主に「統合」と「分離」という二つの思想に大別されます。この思想の違いが、各メーカーの製品ラインナップとアーキテクチャを決定づけています。
統合ネットワークアーキテクチャ:単一ネットワークの覇者、Rockwell Automation このアプローチの旗手は、間違いなくRockwell Automationです 。同社の「統合アーキテクチャ」は、モーション制御、安全制御、汎用I/O制御といった、従来は別々のネットワークで構成されていたものを、すべて単一のEtherNet/IPネットワーク上に統合することを目指しています。Kinetixシリーズのサーボドライブは、この思想を体現する製品であり、ネットワークに直接接続され、高度なモーション制御を実現します 。このアプローチの最大の魅力は、設計と配線のシンプルさ、そしてStudio 5000という単一のソフトウェア環境でシステム全体を管理できる点にあります。しかし、時間的制約の厳しいモーションデータと他の情報系トラフィックが混在するため、高性能なネットワークスイッチや厳密なネットワーク管理が不可欠となります。
デュアルバスアーキテクチャ:性能保証を最優先する日本の主要メーカー 一方、オムロン、安川電機、キーエンスといった日本の主要メーカーの多くは、「デュアルバスアーキテクチャ」を選択しています 。これは、最も高いリアルタイム性と決定論的動作が求められるサーボドライブ間の通信を、物理的に分離された専用の高速モーションバス(主にEtherCATやMECHATROLINK)に委ねるという思想です 。そして、コントローラが持つもう一つのEtherNet/IPポートを、上位システムとの情報連携や他の機器との接続に使用します。この方式の最大の利点は、モーション制御の性能が他のネットワークトラフィックに一切影響されず、絶対的に保証される堅牢性にあります。その代わり、システム構成は複雑になり、エンジニアは複数のネットワークプロトコルの知識を要求される可能性があります。
このアーキテクチャの選択は、メーカーの哲学そのものであり、どちらが優れているという単純な話ではありません。システムのシンプルさと統合性を取るか、モーション性能の絶対的な保証を取るか。このトレードオフを理解することが、メーカー選定の鍵となります。
第3章:EtherNet/IPの真価を決める「CIP拡張機能」という名の物差し
「EtherNet/IP対応」というラベルだけでは、そのサーボドライブが持つ真の能力を測ることはできません。その性能を正しく評価するための重要な物差しが、**CIP(Common Industrial Protocol)**の高度な拡張機能への対応状況です。特に、CIP Motion™、CIP Sync™、CIP Safety™の3つは、システムの価値を決定づける重要な要素です。
- CIP Motion™:高性能同期モーションの頂点 これは、EtherNet/IP上で高性能な多軸同期モーション制御を実現するための、最も包括的で高度なドライブプロファイルです 。CIP Motionに対応したドライブは、位置・速度・トルクの制御ループをドライブ自身で完結させることができ、コントローラの負荷を大幅に軽減します。これにより、多数の軸を極めて高い精度で同期させる、電子カムや電子ギアといった複雑なアプリケーションが可能になります。この機能への対応は技術的なハードルが非常に高く、対応メーカーはごく少数に限られます。
- CIP Sync™:高精度な時刻同期の基盤 CIP Motionを実現するための必須技術が、高精度な時刻同期プロトコルであるCIP Sync™です 。これは国際規格IEEE 1588をベースにしており、ネットワーク上の全てのデバイスがマイクロ秒未満の誤差でクロックを共有できます。これにより、ネットワークの通信遅延(ジッター)に影響されることなく、各デバイスが定められた時刻に正確に動作することが可能となり、決定論的なリアルタイム制御の基盤を築きます。
- CIP Safety™:ネットワーク化された機能安全 CIP Safety™は、安全信号(非常停止、ライトカーテンなど)を標準の制御データと同じEtherNet/IPネットワーク上で伝送するための安全プロトコルです 。これにより、従来必要だった安全リレーや専用の安全配線が不要になり、システムの配線を劇的に簡素化できます。また、高度な診断機能や柔軟な安全ゾーンの構成が可能となり、設計と保守の効率を大幅に向上させます。
これらのCIP拡張機能への対応レベルこそが、サーボドライブの真の実力を示す指標です。単にEtherNet/IPに接続できるだけでなく、どのレベルのモーション制御や安全統合が可能かを見極めることが、極めて重要なのです。
第4章:【メーカー別】サーボドライブEtherNet/IPネイティブ対応 徹底分析


ここでは、主要FAメーカーのサーボドライブが、単体でEtherNet/IPにネイティブ対応しているか、そしてCIP拡張機能をどのレベルまで実装しているかを、公式資料に基づき徹底的に分析します。
- Rockwell Automation (Kinetixシリーズ) 評価:統合ネットワークの王者 Kinetix 5500/5700シリーズは、CIP Motion™、CIP Sync™、CIP Safety™の全てにネイティブ対応する、市場のベンチマークです 。ドライブ自体がデュアルEthernetポートを持ち、DLR(Device Level Ring)トポロジにも対応。Studio 5000開発環境とシームレスに統合され、単一ネットワーク上での高性能モーションと安全制御を最もシンプルに実現します。
- 三菱電機 (MELSERVO-J5/J4-TMシリーズ) 評価:ネイティブ対応だが、モーションは限定的 MR-J5-G-N1などのモデルは、ネイティブなEtherNet/IPポートを搭載しています 。しかし、公式資料を精査した結果、CIP Motion™プロファイルへの対応は確認できませんでした 。基本的なI/O制御やパラメータ設定は可能ですが、高度な同期モーションは、同社が推進するCC-Link IE TSNネットワークが主戦場となります。Rockwell製PLCとの連携を容易にするAOI(Add-On Instructions)が提供されている点は大きな特徴です 。
- Siemens (SINAMICSシリーズ) 評価:PROFINET主軸の柔軟なマルチプロトコル対応 SINAMICS S210などのドライブは、パラメータ設定一つでPROFINETとEtherNet/IPを切り替えられる高い柔軟性を持ちます 。ネイティブなEtherNet/IPデバイスとして機能しますが、三菱電機と同様にCIP Motion™への対応は確認できませんでした 。同社の高性能モーションはPROFINET IRTで実現されるため、EtherNet/IPは主に他社製PLCとの基本的な接続性の確保が目的と考えられます。
- オムロン (1Sシリーズ) 評価:明確なデュアルバスアーキテクチャ 1Sシリーズのサーボドライブは、純粋なEtherCATネイティブデバイスであり、EtherNet/IPポートを搭載したモデルは存在しません 。EtherNet/IPネットワークへの接続は、必ずNJ/NXシリーズコントローラがゲートウェイとして機能します。ただし、システムとしてはNX-SL5セーフティコントローラを追加することでCIP Safety™に対応可能であり、FSoE(Safety over EtherCAT)とCIP Safetyを両立できるユニークな構成が可能です。
- 安川電機 (Σシリーズ) 評価:コントローラ中心のゲートウェイ方式 安川電機のサーボドライブ(SERVOPACK)も、単体でのネイティブEtherNet/IP対応モデルは確認できませんでした。MPシリーズモーションコントローラに**オプションの通信モジュール(263IF-01など)**を装着することで、システムとしてEtherNet/IPに接続します 。高性能モーションは、自社のMECHATROLINKやEtherCATが担います。
- その他の主要メーカー
- Bosch Rexroth (IndraDriveシリーズ): マルチプロトコル対応のドライブで、認証済みのCIP Safety™に対応している点が大きな強みです 。
- Emerson/Control Techniques (Digitax HDシリーズ): オプションでCIP Safety™に対応。同期モーションにはIEEE1588ベースの独自プロトコルRTMoEを使用します 。
- Kollmorgen (AKD2Gシリーズ): CIP Sync™には対応しますが、CIP Motion™とCIP Safety™には非対応と明確に記載されているユニークな製品です 。
このように、各社の戦略と実装レベルは大きく異なります。カタログの「EtherNet/IP対応」という一言の裏にある、これらの技術的な詳細を理解することが不可欠です。



国内では三菱電機のMR-J5がEthernet/IPに対応したことを発表しました!新しい選択しが増えましたね。
第5章:【実践編】あなたのプロジェクトに最適なサーボドライブの選び方
これまで分析してきた各メーカーのアーキテクチャと技術実装レベルを踏まえ、具体的な要求シナリオに基づいた最適な選定戦略を提案します。このガイドを参考に、あなたのプロジェクトに最も合致するソリューションを見つけてください。
- シナリオ1:最高の統合性と単一ネットワークのシンプルさを求める場合 推奨:Rockwell Automation (Kinetix 5700/5500シリーズ) 複雑な多軸同期モーションや高度な安全機能を、単一のEtherNet/IPネットワーク上で、最小限の開発工数で実現したい場合に最適です。Studio 5000という統一された開発環境で、コントローラからドライブ、安全機器まで全てをシームレスに扱えるメリットは計り知れません。統合リスクを最小化し、迅速な立ち上げを目指すプロジェクトの第一候補となるでしょう。
- シナリオ2:モーション性能の絶対的な保証が最優先事項である場合 推奨:オムロン、安川電機などのデュアルバスシステム 上位ネットワークのトラフィック状況に一切影響されず、サーボループのリアルタイム性と決定論的な動作を確実に保証したい場合には、このアーキテクチャが最適です。モーション制御専用にEtherCATやMECHATROLINKといった高性能バスを使用することで、システムの堅牢性と性能の安定性を最大限に高めることができます。特に、超高速・高精度が求められる専用機などでその真価を発揮します。
- シナリオ3:既存のRockwellシステムに、同期を必要としない単軸モーションを追加したい場合 推奨:三菱電機 (MELSERVO-J5)、Siemens (SINAMICS S210)など 既にRockwell AutomationのPLCで構築されたシステムがあり、そこにコンベア制御など、他の軸との厳密な同期を必要としない単軸のサーボを追加したい場合に有効な選択肢です。これらのメーカーが提供するネイティブEtherNet/IP対応ドライブは、ゲートウェイ不要で直接ネットワークに接続でき、AOIなどを活用することで比較的容易にシステムに統合できます。コスト効率に優れた拡張が可能になります。
- シナリオ4:ネットワーク化された安全機能(CIP Safety)の構築が必須の場合 推奨:Bosch Rexroth (IndraDrive)、Emerson/Control Techniques (Digitax HD)など CIP Motionによる高度な同期は不要でも、配線を簡素化し、診断機能を向上させるために、認証済みのネットワーク安全機能であるCIP Safety™を導入したい場合に最適です。これらのメーカーは、ODVA認証済みの堅牢なCIP Safetyソリューションを提供しており、安全性を重視する機械・装置の構築において強力な選択肢となります。
まとめ:未来のモーションネットワークとTSNの役割
本記事では、サーボドライブのEtherNet/IP対応について、単なる接続可否を超えたアーキテクチャと技術実装レベルの深層を分析しました。その結果、市場はRockwell Automationが主導する**「統合ネットワーク」と、日本の主要メーカーが採用する「デュアルバス」**という、二つの大きな設計思想に分かれていることが明らかになりました。
この選択は、システムのシンプルさと性能保証のトレードオフであり、どちらが優れているということではなく、プロジェクトの目的や要件に応じて最適なアプローチを選択することが重要です。
そして今、この勢力図に変化をもたらす可能性を秘めた技術が登場しています。それが**TSN(Time-Sensitive Networking)**です。TSNは、標準のEthernet上で厳密な時刻同期と帯域保証を実現する技術であり、統合ネットワークアーキテクチャが抱える「性能保証」の課題を解決する可能性を秘めています。TSNが普及すれば、これまで性能面で専用バスに軍配が上がっていた領域でも、EtherNet/IPによる統合ネットワークが現実的な選択肢となるかもしれません。
FAエンジニアとして、またシステムインテグレータとして、単に「EtherNet/IP対応」という言葉に惑わされることなく、その背景にあるアーキテクチャ思想と、CIP Motion/Sync/Safetyといった拡張機能の実装レベルを正しく理解すること。そして、TSNのような次世代技術の動向を注視し続けること。これこそが、未来の競争力あるマシンを構築するための鍵となるでしょう。



コントローラレベルの産業用ネットワークでは体感で最も伸びているネットワークという印象です。
Ethernet/IP簡単まとめ
サーボドライブ EtherNet/IP 対応状況: 技術戦略インフォグラフィック
アーキテクチャの大分岐
現代のFAシステムにおけるサーボ制御は、二つの根本的に異なる設計思想に大別されます。この選択は、システムの性能、柔軟性、そして保守性全体を決定づけます。
統合ネットワークアーキテクチャ
PLC / モーションコントローラ
単一のEtherNet/IPネットワーク
モーション、安全、I/Oを全て統合
サーボドライブ A
サーボドライブ B
安全I/O
汎用I/O
特徴:
- シンプル: 配線とネットワーク管理を簡素化。
- 統合的: 単一のソフトウェアで全体を管理。
- 課題: ネットワーク輻輳が性能に影響する可能性。
- 主導: Rockwell Automation
デュアルバスアーキテクチャ
PLC / モーションコントローラ
EtherNet/IP
情報・安全通信
専用モーションバス
(EtherCAT, MECHATROLINK)
上位システム / HMI
ドライブA
ドライブB
特徴:
- 高性能: モーション通信が分離され性能を保証。
- 堅牢: 上位ネットワークの負荷に影響されない。
- 課題: 構成が複雑化、コントローラがボトルネックに。
- 主導: オムロン、安川電機など日本の主要メーカー
市場アーキテクチャの採用状況
市場は、どちらか一方のアーキテクチャに偏っているわけではありません。多くのメーカーは、自社の強みやターゲット市場に応じて、統合型、デュアルバス型、あるいはその両方の要素を取り入れたハイブリッドな戦略を採用しています。
分析対象の主要メーカーに基づいたアーキテクチャ分類の概算比率。
CIPプロトコルを解読する
「EtherNet/IP対応」は始まりに過ぎません。真の価値は、高度なCIP (Common Industrial Protocol) 拡張機能のサポートにあります。これらがシステムの能力を決定します。
CIP Safety™
安全信号を標準ネットワークで伝送。配線を劇的に簡素化し、診断を容易にします。システムの安全度水準 (SIL/PLe) をソフトウェアで管理可能にします。
CIP Sync™
高精度な時刻同期 (IEEE 1588) を実現。ネットワーク上の全デバイスがマイクロ秒レベルでクロックを共有し、決定論的な協調動作の基盤となります。
CIP Motion™
高性能な多軸同期モーション制御の頂点。サーボループをドライブ側で閉じ、コントローラの負荷を軽減。複雑な補間や電子カムを容易に実現します。
CIP拡張機能のサポートレベル比較
メーカー各社のCIP拡張機能への対応は一様ではありません。完全な統合スイートを提供するリーダーから、特定の機能に特化する戦略的プレイヤーまで様々です。
各メーカーの公開情報に基づき、CIP Motion(3pt), Safety(2pt), Sync(1pt)のサポート状況をスコア化。スコアが高いほど統合レベルが高いことを示す。
アーキテクトの選択ガイド
あなたのプロジェクトに最適なアーキテクチャは?主要な要求事項から最適なアプローチを見つけましょう。
あなたの最優先事項は?
最大限の統合と
単一ネットワークのシンプルさ
モーション性能の
絶対的な保証と分離
認証済みネットワーク安全
(CIP Safety) が必須
推奨アプローチ:
統合ネットワークアーキテクチャ
Rockwell Automation
(Kinetixシリーズ)
推奨アプローチ:
デュアルバスアーキテクチャ
Omron, Yaskawa, etc.
(EtherCAT/MECHATROLINKベース)
推奨アプローチ:
安全機能特化型
Bosch Rexroth, Emerson
(CIP Safety認証製品)
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