サーボシステムにおける24V電源分離の重要性:制御・I/O・ブレーキ電源の分離に関する技術的考察

サーボドライブを使用するシステムの設計において、24V DC電源の構成は、システムの信頼性、安定性、そしてトラブルシューティングの容易性を左右する極めて重要な要素です。ご質問の「制御回路用」「I/O用」「ブレーキ用」の24V電源を分離すべきかという点について、結論から申し上げますと、「はい、これらの電源は分離することが強く推奨されます」

この分離は、単なる慣例ではなく、電気的ノイズの干渉を防ぎ、各コンポーネントの安定した動作を保証するための、工学的に合理的な設計プラクティスです。以下に、各社のマニュアルや技術資料を基に、その根拠を詳述します。

ろぼてく

同じ24Vだから共通化しちゃえ!と思うかもしれませんが、分けるべきです!その理由を説明します。

この記事を書いた人
  • 某電機メーカーエンジニア
  • エンジニア歴10年以
ろぼてく

1. 電源分離の基本原則:なぜ分ける必要があるのか?

サーボシステムにおける24V電源は、その用途によって大きく3つのグループに分類できます。

  1. 制御回路用電源(クリーン電源): サーボドライブのCPU、通信IC、安全ロジックなど、システムの「頭脳」にあたる最も繊細な電子部品に電力を供給します。
  2. I/O用電源(クリーン電源): 外部コントローラからの指令パルス、センサー入力、リミットスイッチなど、制御信号のやり取りに使用されます。
  3. ブレーキ用電源(ダーティ電源): サーボモータの電磁ブレーキや、外部リレー、電磁接触器といった誘導性負荷(コイル)を駆動します。

分離の最大の理由は、電気的ノイズの分離です。特に「ブレーキ用電源」で駆動される電磁ブレーキコイルは、オン/オフ時に大きなサージ電圧(逆起電力)や高周波ノイズを発生させる「ノイズ発生源」となります 。このノイズが同じ電源ラインを共有する「I/O」や「制御回路」に回り込むと、信号の品位が損なわれ、以下のような問題を引き起こす可能性があります。  

  • I/O信号の誤認識: センサーが誤作動したり、指令パルスが乱れて位置決め精度が悪化する 。  
  • 制御ロジックのエラー: ドライブのCPUが誤動作し、予期せぬアラームや停止につながる。
  • 通信障害: ネットワーク通信にノイズが乗り、データ化けや通信途絶を引き起こす。

この原則を裏付けるように、Rockwell Automationの技術資料では、制御盤設計における**「ノイズゾーン」の確立と、「クリーン」なコンポーネント/ケーブルと「ダーティ(汚染)」なそれらを分離する**ことが、システムの信頼性を高めるための基本として強く推奨されています 。電源系統を分離することは、この設計思想を具現化する最も効果的な手段なのです。  

ろぼてく

ノイズ観点から分けたほうがいいのですね。

2. 各社マニュアルに見る電源分離のエビデンス

多くのメーカーは、この電源分離の重要性をマニュアルの中で明確に、あるいは間接的に示しています。

安川電機:ブレーキ電源とI/O電源の分離を明確に推奨

この問題に関して最も直接的かつ強力なエビデンスを提供しているのが安川電機です。同社のアプリケーションノートには、以下のように明確に記載されています。

“Use a dedicated 24 VDC power supply just for energizing the Servomotor brake coil. I/O signals might malfunction if they use the same 24 VDC power supply as the Servomotor brake coil.” (訳:サーボモータのブレーキコイルを励磁するためだけに、専用の24V DC電源を使用してください。もしI/O信号がサーボモータのブレーキコイルと同じ24V DC電源を使用した場合、I/O信号が誤動作する可能性があります。)  

この記述は、ブレーキコイルが生成するノイズが、同じ電源を共有するI/O信号に直接的な悪影響を及ぼすリスクを明確に指摘しており、電源分離が不可欠であることの強力な論拠となります。

オムロン:I/O(パルス信号)用電源の分離を推奨

オムロンは、ノイズ対策に関するFAQの中で、位置ずれが発生する場合の対策として、電源の分離を推奨しています。

「コントローラのパルス出力用の電源を専用電源としてください。グランドラインも分離するのが有効です。」  

これは、ノイズに敏感な高速パルス信号を扱うI/O系統には、他の機器と分離されたクリーンな専用電源を用意することが、安定した動作のために有効であることを示しています。

IAI:電源投入シーケンスによる分離の示唆

IAIのコントローラマニュアルでは、電源投入の手順として、周辺機器電源(PIO用24V電源、ブレーキ電源)を先に供給し、その後に制御電源を投入するシーケンスが記載されています 。この手順は、そもそもこれらの電源系統が物理的に分離されていることを前提としており、実用的なシステム構成において電源分離が標準的なプラクティスであることを示唆しています。  

海外メーカーの思想:システムレベルでの分離
  • Rockwell Automation: 前述の通り、「クリーン負荷」と「ダーティ負荷」を分離する思想を提唱しており、24V電源が適切に接地され、クリーン負荷のときに分離されていることをチェック項目として挙げています 。同社のKinetixシリーズのマニュアルでは、24V制御電源入力(CP)コネクタが明確に用意されており、この電源系統の独立性が重視されていることがわかります 。  
  • Siemens: SINAMICSシリーズのマニュアルでは、ドライブの電子回路を動作させるための外部24V電源の接続が必須とされており、この電源の安定性がシステム全体の動作の前提となっています 。  
  • 海外技術フォーラムでの共通認識: 海外のエンジニアが集う技術フォーラムでも、「ブレーキには専用の24V電源が必要(The brake requires its own separate 24V supply.)」という見解は、しばしば共有される経験則となっています 。  

3. 推奨される電源構成(ベストプラクティス)

以上のエビデンスを総合すると、信頼性の高いサーボシステムを構築するための24V電源のベストプラクティスは、以下のようになります。

  1. 電源の物理的な分離: 少なくとも2つの独立した24Vスイッチング電源を用意します。
    • 電源A(クリーン電源): サーボドライブの制御回路と、センサーやパルス信号などのI/Oに供給します。これらの系統はどちらもノイズを嫌うため、同じクリーンな電源を共有することは許容されます。
    • 電源B(ダーティ電源/ユーティリティ電源): サーボモータの電磁ブレーキ、および盤内の他のリレーや電磁接触器、ソレノイドバルブなど、ノイズを発生させる可能性のある全ての誘導性負荷に供給します。
  2. 配線の分離: 電源を分離するだけでなく、それぞれの系統の配線も物理的に離して配策します。「クリーン」な信号線と「ダーティ」な動力線・ブレーキ線を同じダクトやケーブル束に混在させることは避けるべきです 。  
  3. 適切な接地: 各電源の0V(GND)は、最終的に制御盤内の一点で共通のアースに接続しますが、ノイズの多いダーティ電源の電流がクリーン電源のGNDラインに回り込まないよう、配線ルートを考慮することが重要です 。  

結論

サーボドライブにおいて、制御回路用、I/O用、ブレーキ用の24V電源を分離することは、システムの潜在的な問題を未然に防ぎ、その性能を最大限に引き出すための重要な設計手法です。特に、安川電機が明確に指摘するように、ノイズ源であるブレーキコイルと同じ電源をI/O信号が共有すると、誤作動のリスクが顕著に高まります 。  

コストや盤内スペースの都合で単一の24V電源を使用する設計も不可能ではありませんが、それは原因不明のトラブルやシステムの不安定性というリスクを抱え込むことになります。長期的な安定稼働とメンテナンスの容易性を考慮すれば、電源を「クリーン」と「ダーティ」に分離することへの初期投資は、十分に価値のあるものと言えるでしょう。

ろぼてく

設備のコストダウンを考えるときに電圧電源が同じものはまとめたくなってしまいます。しかし、別れているものにはそれなりの理由があります。しっかりと背景を理解しましょう。

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この記事を書いた人

現役エンジニア 歴12年。
仕事でプログラミングをやっています。
長女がスクラッチ(学習用プログラミング)にハマったのをきっかけに、スクラッチを一緒に学習開始。
このサイトではスクラッチ/プログラミング学習、エンジニアの生態、エンジニアによる生活改善について全力で解説していきます!

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