【はじめに】この記事は、特定の銘柄の購入を推奨するものではありません。本記事で提供する情報は、投資判断の参考としていただくことを目的としており、最終的な投資判断はご自身の責任と判断で行ってください。
「配当利回り8.5%」――。株式投資をしている方なら、この数字に思わず目が留まるのではないでしょうか。今回ご紹介するのは、そんな驚異的な配当利回りを発表して話題となった、株式会社エフ・シー・シー(証券コード:7296)です。
しかし、高いリターンには相応のリスクがつきもの。この記事では、エフ・シー・シーが本当に「お買い得」な銘柄なのか、その魅力的な側面と、投資家が直視すべき深刻なリスクの両面から徹底的に分析していきます。

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エフ・シー・シー(F.C.C.)ってどんな会社?


エフ・シー・シーは、静岡県に本社を置く自動車部品メーカーです。主力製品は、自動車やオートバイのクラッチ。特に二輪車用クラッチでは、ホンダ、ヤマハ、スズキ、カワサキの国内4大メーカーすべてに製品を供給し、世界トップシェアを誇る隠れたグローバル企業です 。
海外売上比率が90%を超えており 、近年の円安が業績を力強く後押ししています 。
投資家を惹きつける3つの魅力


魅力①:衝撃の配当利回り8.5%!
最大の魅力は、なんといってもその株主還元姿勢です。2025年3月期には、1株あたり202円という大幅な増配を発表しました 。これにより、株価によっては配当利回りが一時**8.5%**という驚異的な水準に達し、多くのインカム投資家の注目を集めました 。
ただし、これには注意が必要です。202円の内訳は、普通配当76円と上場20周年を記念した特別配当126円です 。この記念配当は一時的なものであるため、来期以降もこの利回りが続くわけではありません。とはいえ、会社は
総還元性向70%以上という非常に高い目標を掲げており 、株主を重視する姿勢は本物と言えるでしょう。
魅力②:「超割安」水準の株価
PBR(株価純資産倍率)は約0.71倍と、会社の解散価値とされる1倍を大きく下回っています 。これは、市場が同社の資産価値を過小評価している可能性を示唆しており、典型的な「バリュー株」の特徴です。PER(株価収益率)も約8.7倍と低く 、割安感があります。
魅力③:嬉しい株主優待
エフ・シー・シーは株主優待制度も実施しています。200株以上を1年以上継続して保有する株主に対して、静岡県産の特産品(新茶やみかんなど)2,500円相当が年2回贈られます 。長期で応援したい株主にとっては嬉しい制度です。
光があれば影もある…無視できない3つの深刻なリスク


これだけ見ると魅力的な銘柄に思えますが、なぜ株価は「超割安」水準で放置されているのでしょうか。その背景には、事業の根幹を揺るがしかねない深刻なリスクが存在します。
リスク①:EVシフトという最大の逆風
世界の自動車業界は「100年に一度の大変革期」の真っ只中にあります。ガソリン車から電気自動車(EV)へのシフトは、エフ・シー・シーにとって致命的な脅威です。
なぜなら、EVにはエンジンやトランスミッション、そして同社の主力製品であるクラッチが不要になるからです 。ガソリン車の部品が約3万点なのに対し、EVは約2万点以下に減少すると言われており 、同社の主力市場が構造的に消滅するリスクに直面しているのです。
リスク②:「第二の創業」は成功するのか?
もちろん、同社もこの危機を座して待っているわけではありません。「第二の創業」を掲げ、クラッチ製造で培った技術を活かしてEV関連部品や非モビリティ分野(ライフスタイル、エネルギーなど)への進出を目指す中期経営計画を推進しています 。
しかし、これらの新規事業はまだ始まったばかり。浜松市に新設する研究開発施設への投資 など、具体的な動きは見られるものの、これがクラッチ事業の落ち込みをカバーできるほどの収益の柱に育つかは、まだ誰にも分かりません。
リスク③:ホンダへの高い依存度
同社の売上の約38%は、主要顧客であるホンダグループ向けです 。これは安定した収益基盤である一方、ホンダの業績や方針転換によって、自社の経営が大きく左右されるという集中リスクを抱えていることを意味します。
競合他社との比較


同じくクラッチを主力とする**エクセディ(7278)や、総合部品メーカー大手のアイシン(7259)**と比較してみましょう。
項目 | F.C.C. (7296) | エクセディ (7278) | アイシン (7259) |
時価総額 (億円) | 約 1,458 | 約 1,997 | 約 5,469 |
営業利益率 (%) | 6.8% | 4.2% | 3.5% (予) |
PBR (倍) | 約 0.71 | 0.83 | 0.62 |
配当利回り (%) | 約 2.7% (普通配当) | 6.08% | 3.58% |
注: データは2025年7月7日時点等の情報に基づき、F.C.C.の利回りは記念配当を除いて算出。
エクセディも高い配当利回りを提供しており、これはクラッチ業界共通の課題と株主還元策の表れかもしれません 。一方、アイシンは巨額の投資でEVシフトへの対応を加速させており 、企業の規模と戦略の違いが鮮明です。
結論:あなたはどの投資家タイプ?


エフ・シー・シーは、短期的な魅力(高配当・割安)と長期的な不安(事業の陳腐化リスク)が同居する、非常に評価の難しい銘柄です。投資判断は、あなたの投資スタイルによって大きく変わるでしょう。
- 高配当狙いのバリュー投資家(短期~中期目線)の方へ
- 判断:「条件付きで検討の価値あり」
- 記念配当が一時的であること、そして長期的な事業リスクを十分に理解した上で、高いインカムゲインを狙うのであれば面白い選択肢かもしれません。いわゆる「バリュー・トラップ」に陥る可能性も覚悟する必要があります。
- 将来の成長性を重視するグロース投資家(長期目線)の方へ
- 判断:「今は待つべき」
- 「第二の創業」が成功し、EV関連などの新規事業が目に見える形で収益に貢献するまでは、投資を見送るのが賢明かもしれません。構造的な逆風はあまりにも強力です。
【最後に】 エフ・シー・シーへの投資は、斜陽産業の優良企業が変革に成功するかどうかに賭ける、挑戦的な投資と言えます。本記事が、あなたの投資判断の一助となれば幸いです。
改めて申し上げますが、本記事は情報提供を目的としたものであり、投資の勧誘や推奨を行うものではありません。投資に関する最終決定は、ご自身の判断と責任において行ってください。
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