【徹底解説】半導体装置の巨人「ディスコ」はどこの国の会社?現役エンジニアが技術と強さの秘密に迫る

こんにちは!親子でプログラミングを楽しむブログを運営している、エンジニアブロガーの「ろぼてく」です。

私は普段、電気製品の設計エンジニアとして10年以上、パワー半導体やマイコンの選定に携わっています。仕事柄、製品の心臓部である半導体チップの品質には、並々ならぬこだわりがあります。たった一つのチップの信頼性が、製品全体の性能と安全性を左右するからです。

でも、皆さんは考えたことがありますか?あの指先に乗るほど小さな半導体チップが、もとは直径30cmの大きなシリコンの円盤「ウェーハ」から、どうやって何千、何万個も作り出されるのかを。その答えの鍵を握るのが、半導体業界の「見えざる巨人」とも呼ばれる、株式会社ディスコです。

私の周りのエンジニア仲間や、就職活動中の学生さんからよくこんな質問を受けます。「ディスコって、名前からしてアメリカの会社ですか?」「ヨーロッパのハイテク企業?」と。確かに、その洗練された名前とグローバルな活躍から、海外企業だと思われることも多いようです。

そこで今回は、その疑問にズバリお答えするとともに、一人の現役エンジニアとして、ディスコがなぜこれほどまでに強く、世界中の半導体メーカーから絶大な信頼を得ているのか、その技術と強さの秘密を徹底的に深掘りしていきたいと思います。公式情報や海外の文献も踏まえ、私の実体験も交えながら、どこよりも詳しく解説していきます!

この記事を書いた人
  • 電機メーカー勤務
  • エンジニア歴10年以上
  • IC設計経験あり
ろぼてく

どこの国の半導体メーカー 総まとめ

みんなが気になるあの半導体メーカーの国籍と何を作っているかがわかります!徹底調査しています!

目次

結論:ディスコはどこの国のメーカーか?

早速、結論から申し上げましょう。株式会社ディスコは、紛れもない日本のメーカーです 。  

創業の地は広島県呉市で、現在の本社は東京都大田区にあります 。1937年に創業した歴史ある企業で、今や世界中の半導体製造に欠かせない存在となっています 。まずは、その基本情報を表で確認してみましょう。  

項目内容
会社名株式会社ディスコ (DISCO CORPORATION)
本社所在地東京都大田区大森北2-13-11  
創業1937年5月5日(広島県呉市にて)  
設立1940年3月2日  
事業内容精密加工装置および精密加工ツールの開発・製造・販売  
証券コード6146(東証プライム市場)  

ちなみに、「ディスコ」という社名は、旧社名である「Dai-Ichi Seitosho CO, Ltd.(第一製砥所)」の頭文字が由来です 。決して音楽のディスコとは関係ありません(笑)。この名前からも、会社のルーツが日本の「ものづくり」にあることが伺えますね。  

ディスコの事業ポートフォリオ:「Kiru・Kezuru・Migaku」の神髄

ディスコがどこの国の会社か分かったところで、次はその「何を作っている会社なのか」を深掘りします。ディスコの事業の根幹には、創業以来ぶれることのない、非常にシンプルかつ奥深い哲学があります。それが**「Kiru・Kezuru・Migaku(切る・削る・磨く)」**という三つの技術です 。  

この三つの技術は、半導体製造の後工程、特にウェーハを個々のチップに分割し、製品化する上で極めて重要な役割を果たします。

  • Kiru(切る:ダイシング) シリコンウェーハ上に形成された多数の半導体回路を、ダイヤモンドの刃(ブレード)やレーザーを使って、一つひとつのチップに超精密に切り分ける技術です。その精度は1/10000 mmレベルで、髪の毛の断面をさらに分割できるほどの細かさです 。  
  • Kezuru(削る:グラインディング) ウェーハの裏面を削り、チップを極限まで薄くする技術です。これにより、スマートフォンなどの薄型化や、チップの放熱性向上が可能になります。ディスコの技術では、コピー用紙(約100 µm)の20分の1である5 µmレベルまで薄くできます 。  
  • Migaku(磨く:ポリッシング) 削った後のウェーハ裏面には、目に見えない微細な傷(加工ダメージ層)が残っています。これを鏡のように磨き上げることでダメージ層を除去し、チップの強度(抗折強度)を劇的に向上させる技術です 。  

私自身の経験から言わせていただくと、この三つのプロセスは、半導体の信頼性を決定づける生命線です。特に、私が専門とするSiC(シリコンカーバイド)やGaN(窒化ガリウム)といった次世代のパワー半導体は、性能向上のためにチップがどんどん薄くなっています。薄くて硬い、しかし脆いこれらの材料は、ダイシング時のわずかな欠け(チッピング)や、研削時に残った内部の歪みが、製品になった後の致命的な故障に直結します。ディスコが持つ「Kezuru」の後の「Migaku」によって応力を緩和する技術は、私たちが求める高い信頼性を実現するための、まさに縁の下の力持ちなのです。

この「Kiru・Kezuru・Migaku」を実現するために、ディスコは二つの事業を柱としています。

  1. 精密加工装置事業 ダイシングソー(切断装置)やグラインダ(研削装置)、ポリッシャ(研磨装置)といった、加工を行うための機械本体を開発・製造・販売する事業です 。これらは半導体メーカーにとって数億円規模の設備投資となります。  
  2. 精密加工ツール事業 装置に取り付けて実際に加工を行う、消耗品である「ツール」を開発・製造・販売する事業です。具体的には、ダイヤモンドを埋め込んだ極薄の切断ブレードや、研削用のホイールなどがこれにあたります 。  

この「装置」と「ツール」の両方を自社で手掛けている点こそが、ディスコの強さの源泉です。これはよく「カミソリと替え刃」のビジネスモデルに例えられます 。一度ディスコの高性能な装置(カミソリ本体)を導入した顧客は、その性能を最大限に引き出すために、ディスコ純正の精密なツール(替え刃)を継続的に購入し続けることになります 。装置の売上は景気の波を受けやすいですが、消耗品であるツールの売上は、世界中の工場が稼働している限り安定的に発生します。この盤石な収益構造が、ディスコの経営を支えているのです 。  

業界でのシェア、ランキング、競合:見えざるガリバーの実力

ディスコは、一般的な知名度はそれほど高くないかもしれませんが、その業界内での存在感はまさに「ガリバー」と呼ぶにふさわしいものです。彼らが手掛ける「Kiru・Kezuru・Migaku」の分野では、他社の追随を許さない圧倒的な世界シェアを誇っています。

製品世界市場シェア
ダイシングソー (切断装置)70~80%  
グラインダ (研削装置)60~70%  
ポリッシャ (研磨装置)60~70%  

この数字がいかに驚異的か、お分かりいただけるでしょうか。世界中の半導体メーカーが、ウェーハをチップに切り分ける工程の実に7割以上で、ディスコの装置に頼っているのです 。これはもはや独占に近い状態で、半導体サプライチェーンにおいてディスコが代替不可能な存在であることを示しています。  

一方で、半導体製造装置メーカー全体の売上高ランキングで見ると、ディスコは世界13位、国内では5位に位置しています(2023年時点) 。一見すると、「あれ、思ったより高くない?」と感じるかもしれません。しかし、これこそがディスコの戦略の巧みさを示しています。  

アプライドマテリアルズ(米国)や東京エレクトロン(日本)といった総合的な装置メーカーが、半導体製造の様々な工程に製品を供給しているのに対し、ディスコは「Kiru・Kezuru・Migaku」という非常にニッチながらも絶対に欠かせない領域に経営資源を集中投下しています。

なぜこの戦略が強いのか。半導体製造というのは、何百もの工程が連なる長い鎖のようなものです。もし、たった一つの工程で失敗すれば、そのウェーハに乗っている数千個のチップ、金額にして数百万円から数千万円が一瞬で無価値になってしまいます。そのため、半導体メーカーはとにかくリスクを嫌います。「安かろう悪かろう」は絶対に許されず、「実績と信頼のある、最高の装置」を求めるのです。

ディスコは、自らの領域で常に世界最高の技術を提供し続けることで、「ディスコの装置を選んでおけば間違いない」という絶対的な信頼を勝ち得ています。ダイシングソー市場における主な競合は、同じく日本の東京精密で、残りの約20%のシェアを持っていますが 、ディスコの牙城を崩すのは容易ではありません。この「狭く、深く」掘り下げる戦略こそが、ディスコを唯一無二の存在たらしめているのです。  

収益と利益の推移:驚異的な高収益の理由

その圧倒的な市場シェアは、当然ながら業績にも如実に表れています。ディスコは日本を代表する高収益企業の一つとしても知られています。まずは過去5年間の連結業績の推移をご覧ください。

会計年度売上高 (億円)営業利益 (億円)営業利益率親会社株主に帰属する当期純利益 (億円)自己資本利益率 (ROE)
2021年3月期1,82852128.5%39016.4%
2022年3月期2,53790835.8%66224.3%
2023年3月期2,8411,10438.9%82825.9%
2024年3月期3,0751,21439.5%84222.4%
2025年3月期3,9331,66842.4%1,23827.6%

この表で特に注目すべきは、営業利益率の高さです。製造業の平均が5%前後と言われる中で、ディスコは常に30%を優に超え、直近の2025年3月期には**42.4%**という驚異的な数値を叩き出しています 。これは、先に述べた「カミソリと替え刃」モデルによる安定した消耗品収益と、他社が真似できない圧倒的な技術力によって高い製品価格を維持できる「価格決定力」の賜物です。  

特に近年は、生成AI向けの高性能半導体や、電気自動車(EV)向けのパワー半導体など、より高度な加工技術が求められる分野の需要が活況を呈しており、これがディスコの高付加価値製品の売上を押し上げています 。その結果、5期連続で過去最高益を更新し、株主への配当も過去最高となるなど、非常に健全な経営サイクルが回っていることがわかります 。  

業界での特徴:ディスコを唯一無二にするもの

圧倒的なシェアと高収益。ディスコをここまで特別な存在にしている要因は、一体何なのでしょうか。それは、いくつかのユニークな特徴の組み合わせにあります。

ツール(砥石)から始まったイノベーションの好循環

ディスコの歴史を紐解くと、彼らが最初から装置メーカーだったわけではないことがわかります。元々は工業用砥石メーカー「第一製砥所」でした 。彼らは砥石の薄型化を追求し、1968年に「ミクロンカット」という、当時としては驚異的な薄さの切断砥石を開発します。しかし、その砥石はあまりにも高性能すぎたため、その能力を活かせる切断装置が世の中に存在せず、使うとすぐに砥石が割れてしまうという問題に直面しました 。  

普通ならここで諦めるところですが、彼らは違いました。「最高の砥石を活かす機械がないなら、自分たちで作ってしまえ」。この発想の転換こそが、今日のディスコを築いたのです。最高のツール(砥石)が最高の装置(ダイシングソー)を生み、その最高の装置は、さらに高度な加工を可能にし、それがまた新たなツールの開発を促す。この**「ツールと装置の共進化」**とも言えるイノベーションの好循環が、他社には決して真似のできない技術的な優位性の源泉となっています。

グローバルな販売網と国内集中の「ものづくり」

ディスコのもう一つの特徴は、そのグローバルな事業展開と、国内に集中した開発・生産体制のコントラストです。売上高の実に9割近くが海外であり、その多くが半導体工場が集積するアジア地域です 。世界16カ国以上に拠点を持ち、世界中の顧客に密着したサービスを提供しています 。  

一方で、その心臓部である研究開発(R&D)は東京の本社や羽田R&Dセンターに 、そして製品を生み出すマザー工場は創業の地である広島(呉工場、桑畑工場)と長野(茅野工場)に集中させています 。  

これは、日本の「ものづくり」の神髄を体現した戦略だと私は考えています。サブミクロン単位の精度が求められる技術では、設計図をメールで送って海外工場に作らせる、といった単純な分業は通用しません。ダイヤモンドブレードを開発するエンジニアが、装置の主軸(スピンドル)を設計するエンジニアの隣で、膝を突き合わせて課題を解決する。この密な連携、いわゆる「すり合わせ」の文化こそが、ディスコ製品の圧倒的な品質と信頼性を生み出しているのです。

「Will会計」という独自の企業文化

ディスコを語る上で欠かせないのが、「Will会計」という非常にユニークな社内制度です 。これは、「Will」という社内通貨を用いて、部署間や社員間の業務のやり取りをすべて売買として可視化する仕組みです 。例えば、設計部門が製造部門に試作品の製作を依頼すれば、設計部門はWillを支払い、製造部門はWillを受け取ります。備品一つ借りるにもWillでの決済が必要です。  

これにより、社員一人ひとりが自らの業務のコストと価値を常に意識するようになり、まるで独立した事業主のような感覚で仕事に取り組みます。この徹底した採算意識が、会社全体の無駄をなくし、イノベーションを促進する土壌となり、先ほど見たような驚異的な利益率に繋がっているのです 。  

この会社の歴史:砥石屋から世界一の装置メーカーへ

ディスコのユニークな特徴は、その歴史の中にこそあります。ここでは、その歩みを時系列で追ってみましょう。

  • 1937年:広島県呉市での創業 海軍工廠があり、日本のハイテク産業のメッカであった広島県呉市で、工業用砥石メーカー「第一製砥所」として産声を上げました 。  
  • 1968年:運命を変えた超極薄砥石「ミクロンカット」 他社にはない極薄の切断砥石を開発。しかし、この砥石を使える装置が存在しないという壁にぶつかります 。  
  • 1970年代:装置メーカーへの転身 「ないなら作る」の精神で自社製切断装置の開発に成功。1975年には初の半導体用ダイシングソーを発表し、砥石メーカーから精密加工装置メーカーへと大きく舵を切りました 。1977年には社名を現在の「株式会社ディスコ」に変更します 。  
  • 1980年代以降:グローバルスタンダードへ シリコンバレーにいち早く進出し、世界中の半導体メーカーに装置を供給。業界の標準機としての地位を確立し、1999年には東京証券取引所第一部に上場しました 。その後もレーザソーの開発など、常に技術の最先端を走り続けています。  

まさに、一つの課題からイノベーションを生み出し、自らの事業領域を定義し直して世界一にまで上り詰めた、日本のものづくり企業の理想的な成功物語と言えるでしょう。

設計/生産はどこで行っているか?:メイドインジャパンの品質

改めて、ディスコの品質を支える設計・生産拠点について整理します。この地理的な配置は、彼らの戦略を理解する上で非常に重要です。

  • 設計・研究開発(R&D)拠点
    • 本社・R&Dセンター(東京都大田区):全ての事業の中核を担う司令塔です 。  
    • 羽田R&Dセンター(東京都大田区):2022年に設立された新しい研究開発拠点で、将来の技術革新を担います 。  
  • 主要生産拠点
    • 広島事業所(広島県呉市):呉工場と桑畑工場からなる、創業の地にある最大級の生産拠点です。精密加工ツールと装置の両方を生産しています 。  
    • 長野事業所(長野県茅野市):2018年から本格稼働した比較的新しい生産拠点です 。  

このように、最先端技術を生み出す頭脳(R&D)と、それを形にする手足(工場)を国内に置くことで、緊密な連携を保ち、世界最高水準の品質を維持しています。これは、グローバル化が進む現代において、あえて国内生産にこだわるディスコの強い意志の表れです。

まとめ

さて、今回は半導体製造装置の巨人、ディスコについて徹底的に解説してきました。最後に、この記事の要点をまとめてみましょう。

  • ディスコはどこの国? → 創業地は広島、本社は東京にある、誇るべき日本のメーカーです。
  • 何をしている会社? → 半導体を**「Kiru・Kezuru・Migaku(切る・削る・磨く)」**ための装置と、消耗品であるツールで世界を支えています。
  • 強さの秘密は?70~80%という圧倒的な世界シェアを誇るニッチトップ戦略と、装置と消耗品で稼ぐ**「カミソリと替え刃」モデル**による高収益構造にあります。
  • なぜ強いのか? → 砥石作りから始まった**「ツールと装置の共進化」の歴史、そしてそれを支える国内集中の開発・生産体制「Will会計」という独自の文化**が、他社には真似のできない競争力の源泉です。

ディスコの物語は、一つの技術をとことん突き詰めることの強さ、そして困難な課題に直面したときにこそイノベーションが生まれるという、ものづくりの本質を教えてくれます。

皆さんが次にスマートフォンを手に取ったり、AIの進化に驚いたりしたとき、その心臓部である半導体チップが、ディスコという日本の企業の超精密技術によって完璧に切り出され、削られ、磨かれたものであることを、少しだけ思い出していただけると嬉しいです。

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この記事を書いた人

現役エンジニア 歴12年。
仕事でプログラミングをやっています。
長女がスクラッチ(学習用プログラミング)にハマったのをきっかけに、スクラッチを一緒に学習開始。
このサイトではスクラッチ/プログラミング学習、エンジニアの生態、エンジニアによる生活改善について全力で解説していきます!

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