【プロの視点】Broadcomはどこの国のメーカー?半導体の巨人からVMware買収まで、現役エンジニアが事業・シェア・歴史を完全解剖

こんにちは!親子でプログラミングを楽しむブログ「おやこプログラミング」を運営している、現役エンジニアの「ろぼてく」です。

私は電気製品の設計者として10年以上、マイコンや半導体の選定に携わってきました。製品の心臓部となる半導体を選ぶ際には、そのメーカーがどこの国の企業で、どのような技術的背景を持っているのかを深く理解することが、品質と供給の安定性を確保する上で非常に重要です。

最近、特にAIインフラの文脈で「Broadcom(ブロードコム)」という名前を耳にする機会が増えたのではないでしょうか。「この重要な企業、一体どこの国のメーカーなんだろう?」と疑問に思う方も多いはずです。

そこで今回は、技術者の視点からBroadcomという企業を徹底的に掘り下げます。単に「どこの国の企業か」という問いに答えるだけでなく、その巨大な事業ポートフォリオ、業界での圧倒的な立ち位置、複雑でダイナミックな歴史、そして製品がどこで設計・生産されているのかまで、私の実務経験も交えながら、網羅的に解説していきます。この記事を読めば、Broadcomが現代のテクノロジー社会でいかに重要な役割を果たしているかが、手に取るようにわかるはずです。

この記事を書いた人
  • 電機メーカー勤務
  • エンジニア歴10年以上
  • 品質担当経験あり
ろぼてく

どこの国の半導体メーカー 総まとめ

みんなが気になるあの半導体メーカーの国籍と何を作っているかがわかります!徹底調査しています!

目次

結論:Broadcomはどこの国のメーカーか?

結論から言うと、Broadcom Inc.はアメリカの企業です 。  

同社はデラウェア州法に基づいて設立された法人であり、本社はテクノロジーの中心地であるカリフォルニア州パロアルトにあります 。NASDAQ証券取引所に「AVGO」というティッカーシンボルで上場しており、名実ともにアメリカを代表するテクノロジー企業の一つです 。  

しかし、このシンプルな答えの裏には、非常に複雑な歴史が隠されています。実は、現在のBroadcom Inc.は、2016年にAvago Technologies(アバゴ・テクノロジーズ)という企業が、旧Broadcom Corporationを買収して誕生した会社なのです 。  

  • Avago Technologies: もともとはシンガポールに拠点を置いていた企業。
  • 旧Broadcom Corporation: カリフォルニア州アーバインに本社を置いていたアメリカの企業。

買収後、Avagoはより知名度の高い「Broadcom」の名を引き継ぎ、後に本社機能をシンガポールからアメリカへ移転し、現在の「Broadcom Inc.」となりました 。  

私たち現場のエンジニアの間でも、この巨大買収は大きな話題となりました。かつてAvagoとBroadcomはそれぞれ異なる得意分野を持つ半導体メーカーとして認識されていましたが、この統合によって業界の勢力図が大きく塗り替えられたのです。この歴史的背景を知ることで、なぜ同社が現在の強力なポートフォリオを持つに至ったのか、より深く理解することができます。

事業ポートフォリオ

Broadcomの事業は、大きく分けて**「半導体ソリューション」「インフラストラクチャ・ソフトウェア」**という2つの強力な柱で構成されています 。2024年時点の収益構成比は、半導体が約58%、ソフトウェアが約42%となっており、近年はソフトウェア事業への戦略的なシフトが鮮明になっています 。  

これほど多岐にわたる事業を持つ企業は稀で、まさに現代のデジタルインフラを根底から支える「縁の下の力持ち」と言えるでしょう。

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セグメント事業部主要製品・技術ターゲット市場
半導体ソリューションネットワーキングTomahawk & Jericho イーサネットスイッチ、PHY、ASIC、プロセッサデータセンター、AI/ML、エンタープライズ
サーバー/ストレージ接続MegaRAIDコントローラ、Fibre Channel HBA、SAS/SATA/NVMe ICデータセンター、エンタープライズストレージ
ワイヤレスWi-Fi/Bluetoothコンボチップ (Wi-Fi 7)、RFフロントエンドモジュールスマートフォン、アクセスポイント、IoT
ブロードバンドPON/DSL、ケーブルモデム/セットトップボックスSoCサービスプロバイダー、ホームネットワーク
産業・車載光絶縁、エンコーダ、車載イーサネット、LED産業、自動車、医療
インフラストラクチャ・ソフトウェアプライベート&ハイブリッドクラウドVMware Cloud Foundation (VCF)、vSphere、TanzuエンタープライズIT、クラウドプロバイダー
メインフレームソフトウェアデータベース管理、DevOps、AIOps、セキュリティ (旧CA Tech製品)Global 2000、金融サービス
サイバーセキュリティSymantec Enterprise Cloud (エンドポイント、ネットワーク、情報セキュリティ)エンタープライズ、政府機関
エンタープライズソフトウェアバリューストリーム管理 (Rally, Clarity)、AIOps、自動化エンタープライズIT、DevOpsチーム

半導体ソリューション:デジタル世界の物理的な基盤

Broadcomの祖業であり、今なお収益の核である半導体事業は、非常に広範な領域をカバーしています。

  • ネットワーキング (AI/データセンター向け): ここが現在のBroadcomの最も注目すべき分野です。同社の「Tomahawk」や「Jericho」といったイーサネットスイッチ向け半導体(ASIC)は、Google、Amazon、Microsoftといった巨大クラウド企業(ハイパースケーラー)のデータセンターで圧倒的なシェアを誇ります 。AIモデルの学習には、何万ものGPUを高速かつ低遅延で接続する必要があり、Broadcomのスイッチチップはそのための神経網として不可欠な存在です 。  
  • ストレージ接続: サーバーの性能を左右するのがストレージとの接続性です。Broadcomは、かつてのLSI社を買収したことで得た「MegaRAID」ストレージコントローラや、Brocade社から引き継いだFibre Channel HBA(ホストバスアダプタ)で市場をリードしています 。私が設計する産業用サーバーでも、信頼性と性能が求められる場面では、まずBroadcom(旧LSI)のRAIDコントローラが候補に挙がります。  
  • ワイヤレス: AppleのiPhoneをはじめとするハイエンドスマートフォンに搭載されるWi-Fi/Bluetoothコンボチップの主要サプライヤーとして知られています 。最新規格である「Wi-Fi 7」においても、業界をリードするソリューションをいち早く市場に投入しています 。  
  • ブロードバンド: 私たちの家庭にインターネットを届けるための技術、例えば光回線(PON)やケーブルテレビのモデム、セットトップボックスなどに使われる半導体でも高いシェアを持っています 。  

インフラストラクチャ・ソフトウェア:企業のIT心臓部を動かす力

一連の巨大買収を経て、Broadcomは半導体メーカーからソフトウェアの巨人へと変貌を遂げました。

  • プライベート&ハイブリッドクラウド (VMware): 2023年に完了した約690億ドルでのVMware買収は、Broadcomの歴史における最大の転換点です 。これにより、企業のデータセンターでサーバーを仮想化するためのソフトウェア「vSphere」や、プライベートクラウド基盤を構築する「VMware Cloud Foundation (VCF)」を手に入れ、オンプレミス(自社運用)およびハイブリッドクラウド市場の支配的なプレーヤーとなりました 。  
  • メインフレーム&エンタープライズソフトウェア (CA Technologies): 2018年に買収したCA Technologiesは、金融機関などの基幹システムで使われるメインフレーム向けのソフトウェアで非常に高いシェアを持っています 。  
  • サイバーセキュリティ (Symantec): 2019年にはSymantecの法人向けセキュリティ事業を買収し、エンドポイント保護や情報漏洩対策(DLP)といった強力なセキュリティ製品群をポートフォリオに加えました 。  

Broadcomの戦略は、デジタル社会を支える「インフラ」に特化している点に特徴があります。流行りの消費者向け製品ではなく、データセンター、企業ネットワーク、クラウド基盤といった、一度導入されると長期間使われ続けるミッションクリティカルな領域に製品を供給しています。これは、AIのゴールドラッシュにおいて、金を掘るための道具(GPUなど)ではなく、その道具をつなぎ、支えるための「つるはし、シャベル、鉄道」を供給する戦略と非常によく似ています。これにより、流行り廃りに左右されにくい、安定的かつ高収益なビジネスモデルを構築しているのです。

その業界でのシェア、ランキング、競合

Broadcomは、その事業の多岐にわたる各分野で、極めて高い市場シェアと競争力を持っています。

市場ランキングと全体的な立ち位置

半導体業界全体で見ると、Broadcomは売上高および時価総額で常にトップ10、近年ではトップ5に入る常連です 。特にAIブームの追い風を受け、2024年から2025年にかけて時価総額は1.4兆ドルを超えるなど、NVIDIAやTSMCと並ぶ「メガキャップ」企業の一角を占めるに至りました 。  

セグメント別の市場シェア

  • イーサネットスイッチ向け半導体: この分野では、Broadcomは「ガリバー」的な存在です。特にデータセンター向けでは市場を独占しており、競合のMarvell社がようやく同等の性能を持つ製品を市場に投入し始めた段階です 。ハイパースケーラーがAIインフラを構築する上で、Broadcomのチップは事実上の標準となっています。  
  • Wi-Fiチップセット: スマートフォンやルーター向けでは、Qualcomm、MediaTekと並ぶ3強の一角です 。特に、高性能が求められるハイエンド市場での存在感が際立っています。  
  • サーバー向けストレージ接続 (RAIDコントローラ/HBA): LSIとEmulexの買収により、この市場でも支配的なシェアを維持しています 。エンタープライズサーバー市場において、同社の製品は高い信頼を得ています。  
  • サーバー仮想化ソフトウェア: VMwareの買収により、この市場では議論の余地なくリーダーとなりました 。MicrosoftのHyper-Vなどが競合として存在しますが、エンタープライズ市場におけるVMwareの牙城は非常に強固です。  

競合関係

Broadcomのビジネスは多岐にわたるため、「単一の競合」は存在せず、セグメントごとに異なる強力なライバルと対峙しています。

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セグメント主要な競合企業競争の性質
AI & データセンターネットワーキングNVIDIA (InfiniBand, NVLink), Marvell (Teralynx)Broadcomはオープンなイーサネット規格を推進し、NVIDIAの独自規格に対抗。Marvellはイーサネット半導体における直接的な競合として台頭。
カスタムAIアクセラレータ (ASIC)Marvell, ハイパースケーラー各社の内製Google (TPU) やMetaなどの巨大IT企業向けに、カスタムチップの設計・供給を競う。
ワイヤレス (Wi-Fi/BT)Qualcomm, MediaTek, Intelスマートフォン、ルーター、PCへのチップ搭載を巡る激しい競争。
ストレージ接続Microchip (Adaptec)エンタープライズサーバー市場におけるRAIDコントローラやHBAでの競争。
インフラストラクチャ・ソフトウェアMicrosoft (Hyper-V, Azure Stack), Nutanix, Red Hat (OpenShift)プライベート/ハイブリッドクラウド基盤および仮想化市場での競争。

特に注目すべきは、AIインフラにおけるNVIDIAとの複雑な関係です。NVIDIAは、自社のGPUクラスター内部の高速接続に「NVLink」や「InfiniBand」といった独自技術を推進しています。これに対し、Broadcomはオープンスタンダードである「イーサネット」こそがAI時代の普遍的なネットワーク技術になるべきだと主張し、自社のTomahawkやJerichoチップを核とした「Scale-Up Ethernet (SUE)」構想を提唱しています 。  

一方で、NVIDIA製のGPUサーバー同士をデータセンター全体で接続する際には、Broadcomのイーサネットスイッチが広く使われており、両社はパートナーでもあります 。このように、競合でありながら協力もする「Co-opetition(協調的競争)」の関係にあり、AIネットワークの覇権を巡るこの戦いは、今後の業界の方向性を占う上で非常に重要なポイントです。  

その会社の収益、利益の推移

Broadcomの財務状況は、その戦略的なM&Aと市場での強力な地位を反映し、一貫して力強い成長を示しています。

財務パフォーマンスの推移

以下の表は、近年のBroadcomの業績推移をまとめたものです。特に、VMware買収後の2024年度における売上高の飛躍的な伸びが際立っています。

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会計年度総売上高 (10億ドル)半導体ソリューション売上高 (10億ドル)インフラストラクチャ・ソフトウェア売上高 (10億ドル)GAAP純利益 (10億ドル)調整後EBITDA (10億ドル)
2021$27.45$20.06 (注1)$7.39 (注1)$6.74 (注1)$16.57
2022$33.20$25.82$7.39$11.50$21.03
2023$35.82$28.18$7.64$14.08$23.21
2024 (予測/実績)約 $51.6(VMware統合後のセグメント)(VMware統合後のセグメント)(四半期により変動)約 $31.9

(注1: 2021年のセグメント別売上高および純利益は、2022年および2023年の年次報告書(Form 10-K)から再計算・参照しています。)

財務トレンドの分析

  • 安定した成長: VMware買収以前から、Broadcomは年率8%前後の安定した成長を遂げていました 。これは、同社の製品がデータセンターや通信インフラといった需要の堅い市場に根差していることを示しています。  
  • VMwareによる飛躍: 2024年度には、VMwareの収益が通年で寄与し始めたことで、総売上高は一気に500億ドル規模へとジャンプアップしました 。  
  • ソフトウェア事業の重要性: 表を見ると、インフラストラクチャ・ソフトウェア事業の売上高が着実に増加し、会社全体の収益に占める割合が高まっていることがわかります。半導体市場は景気変動の影響を受けやすい「シクリカル(周期的)」な性質がありますが、法人向けソフトウェアは年間契約などが主体であるため、より安定的で予測可能な収益源となります 。  

この財務データの推移は、Broadcomが単なる半導体メーカーから、いかにしてソフトウェアとハードウェアの両輪で走るハイブリッドなテクノロジー企業へと戦略的に変貌を遂げたかを明確に物語っています。景気変動のリスクをソフトウェア事業の安定収益でヘッジし、両事業の顧客基盤(世界のトップ企業2000社、いわゆるGlobal 2000)を共有することで相乗効果を生み出す。この巧みなビジネスモデルこそが、Broadcomの驚異的な収益性と成長力の源泉なのです。

この会社の歴史

Broadcomの歴史は、アメリカのテクノロジー史を象徴するような、合併と買収(M&A)の連続によって形作られてきました。現在のBroadcom Inc.を理解するには、そのルーツである2つの偉大な企業の系譜を辿る必要があります。

二つの源流:Avagoと旧Broadcom

  1. Avagoの系譜 (HPの遺伝子): Broadcomの源流の一つは、1961年に設立されたHewlett-Packard(ヒューレット・パッカード)の半導体製品部門「HP Associates」にまで遡ります 。この部門は1999年にAgilent Technologiesとしてスピンオフし、さらに2005年に投資ファンドKKRとSilver Lake Partnersによって買収され、「Avago Technologies」が誕生しました。Avagoは光通信部品や産業用半導体に強みを持ち、2009年にNASDAQへ上場しました 。  
  2. 旧Broadcom Corporationの系譜: もう一方の源流は、1991年にUCLAのヘンリー・サミュエリ教授とヘンリー・ニコラス博士によって設立された「Broadcom Corporation」です 。同社は通信用半導体の分野で急成長を遂げ、イーサネット、Wi-Fi、セットトップボックスなどのチップで業界をリードする存在となりました。  

世紀の統合とソフトウェアへの進出

転機が訪れたのは2015年。Avago Technologiesが、自社よりも規模の大きいBroadcom Corporationを370億ドルで買収するという衝撃的な発表を行いました 。2016年に買収が完了すると、Avagoはよりブランド力のある「Broadcom」の名を冠し、「Broadcom Limited」として新たなスタートを切りました。  

この統合を主導したのが、マレーシア出身の辣腕経営者である現CEOのホック・タン氏です 。彼の指揮の下、新生Broadcomは積極的なM&A戦略を加速させ、半導体だけでなくソフトウェアへと事業領域を劇的に拡大していきます。  

変革を象徴するM&Aの歴史

Broadcomの成長戦略は、その買収の歴史そのものです。以下の表は、同社を現在の姿へと変貌させた主要なM&Aをまとめたものです。

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買収企業買収額獲得した戦略的事業
2013LSI Corporation66億ドルエンタープライズストレージ (RAIDコントローラ, SAS/SATA IC)
2016Broadcom Corporation370億ドル通信チップ、ネットワーキング、ブロードバンド、Wi-Fi
2017Brocade Communications59億ドルFibre Channelネットワーキング (SANスイッチ)
2018CA Technologies189億ドルメインフレームおよびエンタープライズソフトウェア
2019Symantec (法人事業)107億ドル法人向けサイバーセキュリティ
2023VMware690億ドルプライベート/ハイブリッドクラウド基盤、仮想化

この買収リストを見ると、一見すると関連性の薄い企業が並んでいるように見えるかもしれません。しかし、ここにはCEOホック・タン氏の一貫した戦略が隠されています。それは、各分野でトップクラスのシェアを持つ「ベスト・イン・クラス」の企業を買収し、それぞれの事業を独立した「フランチャイズ」のように運営するというものです 。  

技術的な統合を無理に進めるのではなく、それぞれの強力な製品群を束ね、同じ顧客基盤(Global 2000)に対して包括的なソリューションとして提供する。特に「ポートフォリオ・ライセンス契約(PLA)」という独自の販売モデルを通じて、顧客はBroadcomの多様なソフトウェア製品群を柔軟に利用できます 。このビジネスモデルこそが、Broadcomを単なる部品メーカーから、企業のITインフラ全体を支える戦略的パートナーへと昇華させたのです。  

設計/生産はどこで行っているか?

Broadcomの製品がどのようにして生まれ、私たちの手元に届くのか。その設計と生産のプロセスを理解することは、同社のビジネスモデルの核心に触れることです。

設計・開発:世界中の頭脳を結集

Broadcomの強みは、その卓越した設計・開発能力にあります。同社は世界各地に研究開発(R&D)拠点を構え、優秀なエンジニアの知見を結集しています 。  

主要なR&D拠点は以下の通りです。

  • アメリカ: カリフォルニア州サンノゼ、アーバイン、パロアルト、コロラド州フォートコリンズなど 。  
  • インド: バンガロール、ハイデラバード 。  
  • イスラエル
  • イギリス: ケンブリッジ 。  

このようにグローバルに展開することで、各地域の技術的な強みを活かし、24時間体制での開発を可能にしています。2024年度には93億ドルという巨額の研究開発投資を行い、20,000件以上の特許ポートフォリオを構築するなど、技術革新へのコミットメントは非常に強力です 。  

生産:ファブレスモデルの徹底

ここが非常に重要なポイントですが、Broadcomは自社で半導体製造工場(ファブ)を所有していません。彼らは**「ファブレス」**というビジネスモデルを採用しています 。  

ファブレスモデルとは? 自社では半導体の設計・開発とマーケティングに特化し、実際の製造は「ファウンドリ」と呼ばれる専門の受託製造企業に委託する形態です 。  

Broadcomの主要なファウンドリパートナーは以下の通りです。

  • TSMC (Taiwan Semiconductor Manufacturing Company): 台湾に本拠を置く、世界最大かつ最先端のファウンドリ 。Broadcomの最先端チップの多くはTSMCによって製造されています。  
  • GlobalFoundries: アメリカのファウンドリ 。  
  • その他: UMC(台湾)など 。  

私が普段の設計業務でBroadcomのチップを選定する際も、このファブレスモデルを常に意識しています。チップの性能や機能はBroadcomの設計思想そのものですが、その性能を実現する微細な製造プロセス(例えば3nmや5nmといった技術)はTSMCなどのファウンドリの力に依存しています。この分業体制が、現代の高性能半導体産業を支えているのです。

このモデルには、戦略的な意味合いが二つあります。

  1. 経営効率の最大化: 最先端の半導体工場を建設・維持するには、数兆円規模の莫大な投資が必要です 。ファブレスモデルにより、Broadcomはその巨額な設備投資を回避し、経営資源を自社の強みである設計・開発に集中させることができます。  
  2. サプライチェーンのリスク: 一方で、製造を特定の地域の特定の企業(特に台湾のTSMC)に大きく依存することは、地政学的なリスクや自然災害などによるサプライチェーン寸断のリスクを内包しています。Broadcomの製品は世界のデジタルインフラの根幹をなすため、このリスクは同社だけでなく、テクノロジー業界全体にとっての重要な課題となっています。

この業界での特徴

これまでの情報を総合すると、Broadcomがテクノロジー業界でいかにユニークで強力な存在であるかが浮かび上がってきます。その特徴を5つのポイントにまとめました。

  1. M&Aを成長の核とする戦略: Broadcomの歴史は、CEOホック・タン氏のリーダーシップの下で実行されてきた、大胆かつ戦略的なM&Aの歴史そのものです 。単に規模を拡大するのではなく、各分野で確固たる地位を築いた企業を買収し、自社のポートフォリオを強化し続けています。  
  2. 市場リーダーへの徹底的なこだわり: 同社は、参入する市場においてNo.1またはNo.2の地位を確立することを基本戦略としています 。中途半端な事業からは撤退し、リソースを「勝てる」分野に集中させることで、高い収益性を維持しています 。  
  3. 半導体とソフトウェアのハイブリッドモデル: NVIDIAやQualcommのような純粋な半導体企業とも、Microsoftのような純粋なソフトウェア企業とも異なります。Broadcomは、半導体(シリコン)とソフトウェアという2つの異なるビジネスを、同じ「ミッションクリティカルなインフラ市場」というターゲット顧客に対して提供する、独自のハイブリッドモデルを確立しました 。  
  4. Global 2000との深い関係: Broadcomの主要顧客は、一般消費者ではなく、世界のトップ企業2000社(Global 2000)です 。これらの大企業のITインフラに深く食い込むことで、安定的で長期的な関係を築き、高い参入障壁(経済的な堀)を構築しています。  
  5. エンジニアリング中心の文化と巨額なR&D投資: M&Aによる財務戦略が注目されがちですが、その根底には卓越した技術力があります。年間1兆円を超える研究開発費を投じ、2万件以上の特許を保有するなど、技術的リーダーシップを維持するための投資を惜しまない、エンジニアリング主導の企業文化が根付いています 。  

まとめ

最後に、この記事の要点をまとめます。

Broadcomは、カリフォルニア州パロアルトに本社を置く、グローバルなアメリカのテクノロジーリーダーです。

その実態は、単なる半導体メーカーではありません。

  • 事業の二本柱: データセンターやAIを支える最先端の**「半導体ソリューション」と、VMwareを核とする企業のIT基盤を動かす「インフラストラクチャ・ソフトウェア」**の両方で市場をリードしています。
  • 成長の歴史: Hewlett-Packardの半導体部門を源流とするAvago Technologiesが、LSI、Brocade、旧Broadcom、CA Technologies、Symantec、そしてVMwareといった各分野のトップ企業を次々と買収することで、現在の巨大な姿を形成しました。
  • ビジネスモデル: 設計は世界中の拠点で行い、製造はTSMCなどの外部ファウンドリに委託する**「ファブレス」**モデルを採用しています。
  • 業界での役割: AIやクラウドといった現代テクノロジーの根幹をなすインフラに対して、必要不可欠な部品(半導体)と運用基盤(ソフトウェア)を供給する、まさに**「デジタル経済の基盤を支える」**企業です。

一人のエンジニアとして、Broadcomという企業を見ると、彼らが単なる「部品サプライヤー」ではなく、「エコシステム・プロバイダー」であることに気づかされます。私たちがサーバーを設計する際、RAIDコントローラ(Broadcom製)、ネットワークカード(Broadcom製)、Fibre Channel HBA(Broadcom製)が連携して動作します。そして今や、そのサーバーを仮想化するソフトウェア(VMware)までもがBroadcomから提供されるのです。

このハードウェアからソフトウェアまでを網羅する「フルスタック」での深い統合力こそが、Broadcomの究極的な競争優位性の源泉です。普段私たちの目に触れることは少ないかもしれませんが、間違いなく世界で最も影響力のあるテクノロジー企業の一つであり、その動向は今後も技術の未来を大きく左右し続けるでしょう。

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この記事を書いた人

現役エンジニア 歴12年。
仕事でプログラミングをやっています。
長女がスクラッチ(学習用プログラミング)にハマったのをきっかけに、スクラッチを一緒に学習開始。
このサイトではスクラッチ/プログラミング学習、エンジニアの生態、エンジニアによる生活改善について全力で解説していきます!

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