こんにちは!親子でプログラミングや電子工作を楽しむブログ「https://oyako-programming.com/」を運営している、エンジニアブロガーの「ろぼてく」です。
僕は普段、電気製品の設計者として10年以上働いており、仕事ではマイコンや半導体の選定を日常的に行っています。自作PCが趣味ということもあり、プライベートでもCPUやGPUの動向は常にチェックしています。
さて、自作PCを組んだり、新しいパソコンを選んだりするとき、必ずと言っていいほど目にする「AMD」というロゴ。Intelと並ぶCPUの巨人ですが、「AMDって、そもそもどこの国の会社なんだろう?」と疑問に思ったことはありませんか?
この記事では、そのシンプルな疑問にお答えするだけでなく、僕自身のエンジニアとしての経験や視点を交えながら、AMDという企業を徹底的に深掘りしていきます。単なる情報の羅列ではなく、技術的な背景や業界での立ち位置、そして今後の可能性まで、どこよりも詳しく、そして分かりやすく解説することをお約束します。
- 電機メーカー勤務
- エンジニア歴10年以上
- IC設計経験あり

どこの国の半導体メーカー 総まとめ
みんなが気になるあの半導体メーカーの国籍と何を作っているかがわかります!徹底調査しています!

結論:AMDはどこの国のメーカーか?

早速、結論からお伝えします。
AMD(Advanced Micro Devices)は、アメリカの半導体メーカーです 。
本社は、テクノロジー企業の聖地であるカリフォルニア州サンタクララにあります 。1969年にシリコンバレーで設立された、生粋のアメリカ企業なのです 。
ここで一つ、面白い事実があります。AMDの最大のライバルであるIntelも、AMDが設立されるわずか1年前に、同じくシリコンバレーで産声を上げています。さらに、両社の創業者たちは、もともと「フェアチャイルドセミコンダクター」という伝説的な半導体企業に在籍していました 。
つまり、この2社の熾烈な競争は、単なるビジネス上のライバル関係というだけでなく、同じ技術的土壌から生まれた「兄弟」のような存在が、異なるビジョンを掲げて競い合ってきた、シリコンバレーの歴史そのものとも言えるのです。
事業ポートフォリオ

AMDが単なる「CPUメーカー」だと思っているなら、それはもう過去の話です。現在のAMDは、非常に多角的な製品ポートフォリオを持つ、総合半導体企業へと変貌を遂げています。公式情報によると、事業は大きく2つのセグメントに分かれています 。
- コンピューティング&グラフィックス部門 (Computing and Graphics): 私たちが最もよく知る、パソコン向けのCPUやGPUなどを担当する部門です。
- エンタープライズ・組み込み・セミカスタム部門 (Enterprise, Embedded, and Semi-Custom): データセンター向けのサーバー用CPUや、ゲーム機向けのカスタムチップなどを手掛ける、利益率の高い事業です。
具体的にどのような製品があるのか、主要なブランドを見ていきましょう。
CPU (Central Processing Units)
- Ryzen (ライゼン): 一般消費者向けのデスクトップPCやノートPCに搭載されるCPUブランドです。2017年の登場以来、その高いコストパフォーマンスで自作PC市場の勢力図を塗り替えました 。
- EPYC (エピック): データセンターやサーバー向けのCPUブランド。近年、Intelの牙城であったサーバー市場で急速にシェアを伸ばしており、AMDの成長を牽引する重要な製品です 。
- Threadripper (スレッドリッパー): 映像制作や3Dレンダリングなど、極めて高い処理能力を要求するプロフェッショナル向けのハイエンドCPUです 。
GPU (Graphics Processing Units)
- Radeon (ラデオン): 主にゲーミングPCに搭載されるグラフィックスカード(グラボ)のブランドです。NvidiaのGeForceシリーズと市場を二分しています 。
- Instinct (インスティンクト): データセンターでのAI(人工知能)の学習や、科学技術計算(HPC)といった専門的な用途に使われる超高性能GPUアクセラレーターです 。
アダプティブ・コンピューティング (Adaptive Computing)
2022年のザイリンクス(Xilinx)買収により、AMDのポートフォリオに強力な新戦力が加わりました 。それが、FPGAやAdaptive SoCといった製品群です。
- FPGA (Field-Programmable Gate Array): 製造後に購入者が内部の回路構成を自由に書き換えられる特殊な半導体チップです。特定の処理に特化した回路を設計することで、CPUやGPUでは達成できない超低遅延・高効率な処理を実現します 。
僕たちエンジニアの視点から見ると、現在のAMDの製品ポートフォリオは、AI時代を見据えた非常に巧みな戦略の結晶です。CPU、GPU、そしてFPGAという3つの異なる特性を持つプロセッサーをすべて自社で提供できる企業は、世界でもAMDだけです。
これにより、例えばデータセンターでは、汎用的な処理をEPYC(CPU)が、大規模なAIモデルの学習をInstinct(GPU)が、そして通信処理や推論などの特定タスクをFPGAが担う、といった形で、AMD製品だけで最適化された一気通貫のソリューションを構築できます。これは、NvidiaやIntelにはない、AMDだけの強力な武器と言えるでしょう 。
その業界でのシェア、ランキング、競合

半導体業界は、まさに巨人たちがしのぎを削る戦場です。AMDの主な競合は、CPU市場におけるIntelと、GPU市場におけるNvidiaです 。
CPU市場シェア:Intelとの熾烈な戦い
かつてはIntelに大きく水をあけられていたAMDですが、Ryzenプロセッサーの登場以降、その差は劇的に縮まり、特にデスクトップPCやサーバー市場ではIntelを猛追しています。最新の市場調査会社のデータを見てみましょう。
| セグメント | AMDシェア (ユニット) | Intelシェア (ユニット) | 前年同期比の変化 (AMD) |
| デスクトップPC | 28.7% | 71.3% | +9.6ポイント |
| ノートPC | 22.3% | 77.7% | +2.0ポイント |
| サーバー | 24.2% | 75.8% | +0.9ポイント |
出典: Mercury Researchの2024年第3四半期データなどを基に作成 。数値はレポートにより若干の差異があります。
この表が示すのは、AMDの驚異的なカムバックです。特に利益率の高いサーバー市場でのシェア拡大は目覚ましく、AMDの業績を力強く支えています 。

ディスクリートGPU市場シェア:Nvidiaの高い壁
一方で、ゲーミングPCなどで使われる単体のグラフィックスカード(ディスクリートGPU)市場では、Nvidiaが圧倒的な強さを見せています。
| ベンダー | 市場シェア (Add-in Board) |
| Nvidia | 88% |
| AMD | 12% |
| Intel | 0% |
出典: Jon Peddie Researchの2024年第1四半期データなどを基に作成 。
このCPU市場とGPU市場の対照的なシェアの状況は、一見するとAMDがGPUで苦戦しているように見えます。しかし、僕たちエンジニアや業界アナリストは、これを「戦略的な選択と集中」の結果だと見ています。
AMDは自社で工場を持たない「ファブレス」企業であり、製造はTSMCのようなパートナーに委託しています。最先端の半導体を製造できる生産ライン(ウェハー)は有限であり、非常に貴重なリソースです。AMDは、Intelに対して技術的優位性を確立し、確実に勝利を収めつつある高収益なサーバーCPU(EPYC)市場に、その貴重なリソースを優先的に投入していると考えられます 。
つまり、Nvidiaという強大なライバルがいて競争が激しいGPU市場にリソースを分散させるよりも、確実に勝てるCPU市場での勝利を盤石にする。これは、限られた経営資源を最適に配分する、非常にクレバーな戦略と言えるでしょう。

その会社の収益、利益の推移

AMDの近年の業績は、まさに「V字回復」という言葉がふさわしいものです。特に、2014年にリサ・スー(Dr. Lisa Su)氏がCEOに就任し、2017年に革新的なZenアーキテクチャに基づくRyzenプロセッサーを発表して以降、同社の業績は爆発的に伸びました 。
その劇的な変化を、公式の財務報告書(10-Kレポート)から見てみましょう。
| 会計年度 | 売上高 (Net Revenue) | 営業利益 (Operating Income) | 純利益 (Net Income) |
| 2019年 | 67億3100万ドル | 6億3100万ドル | 3億4100万ドル |
| 2020年 | 97億6300万ドル | 13億6900万ドル | 24億9000万ドル |
| 2021年 | 164億3400万ドル | 36億4800万ドル | 31億6200万ドル |
| 2022年 | 236億100万ドル | 12億6400万ドル | 13億2000万ドル |
| 2023年 | 226億8000万ドル | 4億100万ドル | 8億5400万ドル |
出典: AMDの公式SECファイリング(10-Kレポート)より作成 。2022年以降の利益減少は、主に490億ドル規模のザイリンクス買収に伴う会計処理の影響が含まれます。
僕がエンジニアとして働き始めた2010年代前半、AMDのCPU(Bulldozerアーキテクチャ時代)は、性能あたりの消費電力が大きく、製品に採用するには正直なところ厳しい選択でした 。しかし、Ryzenが登場してすべてが変わりました。Intelのハイエンド製品に匹敵するマルチコア性能を、圧倒的な低価格と低消費電力で実現できるようになったのです。
この表の数字は、単なる会計上の数値ではありません。僕たち設計者にとっては、より高性能で優れた製品を設計するための「選択肢」が劇的に広がったことを意味する、非常に大きな変化の証なのです。
その業界での特徴

AMDの強さの秘密は、そのユニークなビジネスモデルと技術革新にあります。
ファブレス経営という選択
AMDの最大の特徴は、自社で半導体製造工場(ファブ)を持たない**「ファブレス」**企業であることです 。設計・開発に特化し、実際の製造はTSMCのような専門企業(ファウンドリ)に委託しています。
これは、自社で設計から製造まで一貫して行うIntelの「IDM(垂直統合型デバイスメーカー)」モデルとは対照的です。かつてAMDも自社工場を持っていましたが、2009年に製造部門を「グローバルファウンドリーズ」として分社化し、完全にファブレスへと舵を切りました 。
このファブレスモデルが、後にIntelに対する最大の戦略的武器となりました。2010年代後半、Intelが自社ファブの微細化プロセス(10nmや7nm)で深刻な遅延に陥っていた時期、AMDは製造で世界をリードするTSMCの最先端プロセスを自由に使うことができました 。これにより、AMDはIntelよりも先に高性能な7nmプロセスの製品を市場に投入し、一気に技術的優位性を築いたのです。設計と製造を分離したことで得られた身軽さが、巨大なIntelを追い抜く原動力となりました。
TSMCとの強固なパートナーシップ
ファブレス企業であるAMDにとって、製造パートナーである**TSMC(台湾積体電路製造)**は、まさに運命共同体とも言える最も重要な存在です 。TSMCの持つ世界最先端の製造技術なくして、今日のAMDの成功はありえませんでした。両社は緊密に連携し、新しいプロセッサーの設計と製造プロセスを共同で最適化することで、常に最高のパフォーマンスを引き出しています 。
「チップレット」という技術革新
もう一つ、AMDの躍進を支えたのが「チップレット」という設計思想です 。これは、巨大な一枚のシリコンウェハーから一つの大きなチップを作るのではなく、小さな機能ブロック(チップレット)を複数製造し、それらを高性能なバス(Infinity Fabric)で連結して一つのプロセッサーとして機能させる技術です。
この手法には、製造上の歩留まり(良品率)が劇的に向上し、コストを大幅に削減できるという大きなメリットがあります。また、異なるプロセスで製造したチップレットを組み合わせることも可能で、設計の自由度も格段に上がります。この革新的なアプローチが、RyzenやEPYCの多コア化と高いコストパフォーマンスを実現する鍵となりました。
この会社の歴史

50年以上にわたるAMDの歴史は、まさに挑戦と復活の物語です。
- 創業期 (1969年〜1990年代): フェアチャイルドセミコンダクター出身のジェリー・サンダースらによって設立 。当初はIntelの互換CPUを製造するセカンドソースメーカーとして事業を開始しましたが、やがて独自のAm386プロセッサーでIntelの独占に風穴を開けました 。
- 黄金期 (1990年代後半〜2006年): 革新的なK7アーキテクチャを採用した**「Athlon」プロセッサーで、世界で初めてCPUの動作クロック1 GHzの壁を突破し、性能面でIntelを凌駕しました 。この勢いのまま、2006年にはカナダのグラフィックス大手 ATI Technologies**を54億ドルで買収。これが現在のRadeon GPUの基盤となります 。
- 苦難の時代 (2007年〜2016年): しかし、その後の「Bulldozer」アーキテクチャが性能と電力効率の両面で苦戦し、Intelに大きく差をつけられる厳しい時代が続きました 。
- 復活と飛躍 (2017年〜現在): 2014年にCEOに就任したリサ・スー氏の強力なリーダーシップのもと、会社は高性能コンピューティングに再び焦点を合わせます 。そして2017年、すべてを刷新した**「Zen」アーキテクチャ とRyzen** CPUが登場。これが歴史的な大成功を収め、AMDは奇跡的な復活を遂げました 。さらに2022年には、FPGAの最大手 ザイリンクスを半導体業界史上最大級の規模で買収し、AIやデータセンター市場での地位を不動のものにしました 。
設計/生産はどこで行っているか?

「アメリカの会社なら、設計も生産も全部アメリカ?」と思うかもしれませんが、グローバル企業であるAMDの実態は少し異なります。
設計・開発 (R&D) はグローバル体制
AMDはアメリカ企業ですが、その頭脳である研究開発(R&D)拠点は世界中に分散しています。
- アメリカ: カリフォルニア州サンタクララ(本社)や、テキサス州オースティンなどが主要な開発拠点です 。
- カナダ: オンタリオ州マーカムにある拠点は、旧ATIの本社であり、現在もグラフィックス技術開発の中心地です 。
- インド: ベンガルールにはAMD最大規模のデザインセンターが開設され、約3000人のエンジニアが最先端技術の開発に従事しています 。
- 台湾: 近年、主要な製造パートナーであるTSMCの拠点に近い台南市と高雄市に、新たなR&Dセンターの設立を発表しました 。
特に、台湾に新たな開発拠点を設けたことは非常に戦略的です。製造を委託する工場のすぐ近くに設計チームを置くことで、開発と製造の連携がよりスムーズになり、次世代製品の開発サイクルを短縮し、品質を向上させる狙いがあります。これは、両社のパートナーシップの深化を象徴する動きです。
生産は台湾を中心としたパートナー企業
前述の通り、AMDはファブレス企業なので、最先端のCPUやGPUの製造は自社では行いません 。
そのほとんどは、世界最大の半導体ファウンドリであるTSMCの台湾にある工場で生産されています 。近年では、地政学的なリスク分散の観点から、TSMCがアメリカのアリゾナ州に建設した新しい工場でもAMDのチップが生産されることが発表されており、サプライチェーンの多様化も進めています 。
まとめ

最後に、この記事の要点をまとめます。
- AMDはどこの国?: アメリカの企業です。本社はカリフォルニア州サンタクララにあります。
- ビジネスモデル: 設計に特化した**「ファブレス」**企業であり、製造は主に台湾のTSMCに委託しています。
- 強み: 革新的な**「Zen」アーキテクチャと「チップレット」技術**により、CPU市場でIntelと互角以上に戦っています。
- ポートフォリオ: CPU(Ryzen, EPYC)、GPU(Radeon)、FPGA(旧ザイリンクス製品)という強力な3本柱を持ち、AI時代に最適なソリューションを提供できます。
- 歴史: 50年以上の歴史の中で浮き沈みを経験しながらも、リサ・スーCEOのもとで見事な復活を遂げた、不屈のイノベーターです。
AMDの物語は、明確なビジョンと卓越したエンジニアリングがあれば、どんなに巨大な相手にも挑戦できることを証明しています。僕たちエンジニアにとって、彼らの復活劇は、この10年で最もエキサイティングなテクノロジー・ストーリーの一つです。
この記事が、あなたのAMDに対する理解を深める一助となれば幸いです。PCパーツ選びの際、そのロゴの裏にある壮大な物語に思いを馳せてみるのも、また一興かもしれませんね。

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