こんにちは!電気製品の設計に10年以上携わっている現役エンジニアブロガーの、ろぼてくです。
普段、私たちが設計する電子機器の心臓部、マイクロチップ。その性能は年々向上していますが、その進化を根底から支える「縁の下の力持ち」がいることをご存知でしょうか。それが、半導体製造装置メーカーです。中でも、業界のルールすら変えてしまうほどの絶対的な力を持つ企業、それがASMLです。
スマートフォンからデータセンター、AIサーバーまで、現代社会に不可欠な最先端半導体の製造を唯一可能にする企業、ASML。しかし、この謎多き巨人が一体どこの国の企業なのか、ご存知ない方も多いのではないでしょうか?
この記事では、単に「どこの国の企業か」という問いに答えるだけでなく、なぜこの一社がこれほどまでに圧倒的な支配力を持つに至ったのか、その技術的な核心に迫ります。私が日々、製品品質の勘所として見ている「技術の本質」という視点から、ASMLの強さの秘密を徹底的に解き明かしていきましょう。
- 電機メーカー勤務
- エンジニア歴10年以上
- IC設計経験あり

どこの国の半導体メーカー 総まとめ
みんなが気になるあの半導体メーカーの国籍と何を作っているかがわかります!徹底調査しています!

結論:どこの国のメーカーか?

結論から申し上げます。ASMLは、オランダの企業です 。
より正確には、オランダ南部の都市フェルドホーフェン (Veldhoven) に本社を置く、オランダの多国籍企業です 。正式名称は「ASML Holding N.V.」で、「ASML」は元々「Advanced Semiconductor Materials Lithography」の略称でした 。
ASMLは1984年、オランダを代表する二つの大手テクノロジー企業、総合電機メーカーのフィリップス (Philips) と半導体製造装置メーカーのASM Internationalの合弁事業として誕生しました 。

これは単なる企業の設立話ではありません。エレクトロニクス全般に強みを持ち、最終製品を見据えたシステム思考を持つフィリップスと、半導体製造の個別プロセスに深く特化したASM International。この二つの異なるDNAが融合したからこそ、ASMLは装置単体だけでなく、システム全体を俯瞰する視野と、半導体製造の深い知見を両立できたのです。これは、我々が製品設計を行う上でも非常に重要な「システム視点」であり、ASMLの成功の原点と言えるでしょう。
事業ポートフォリオ

ASMLの事業は、単に「装置を売る」だけではありません。顧客である半導体メーカーを成功させるための、包括的なソリューションを提供しています。
中核事業:リソグラフィシステム
ASMLの心臓部であり、売上の大半を占めるのが、半導体の回路パターンをシリコンウェーハに焼き付ける「リソグラフィ(露光)装置」です。
- EUV(極端紫外線)リソグラフィ装置: ASMLの王冠に輝く宝石であり、同社を絶対王者たらしめる技術です。現在、7nm、5nm、3nmといった最先端の半導体を量産できる世界で唯一の技術であり、ASMLが100%独占しています 。現行の量産機である「NXE」シリーズに加え、2nm以降の未来の半導体を実現する次世代機「EXE(High-NA)」シリーズの開発も進めています 。
- DUV(深紫外線)リソグラフィ装置: EUVが脚光を浴びる一方で、半導体業界の「働き馬」として今なお不可欠なのがDUV装置です。最先端チップであっても、全ての層がEUVで描かれるわけではなく、比較的配線が太い層にはDUVが使われます。また、自動車や家電に使われる多くの半導体はDUV装置で製造されており、こちらもASMLが圧倒的なシェアを誇ります 。液浸ArF、ドライArF、KrFなど、用途に応じて様々な種類の装置をラインナップしています。
包括的なリソグラフィ・ソリューション
ASMLの強みは、装置本体だけにとどまりません。
- 計測・検査装置 (Metrology & Inspection): ナノメートルの世界では、「描く」ことと同じくらい「測る」ことが重要です。ASMLは、描かれた回路が設計通りかを超高精度で測定する「YieldStar」や、買収したHermes Microvision社の電子ビーム検査技術などを提供し、製造プロセスの品質を保証しています 。
- 計算リソグラフィ (Computational Lithography): これは露光プロセスの「頭脳」にあたる部分です。光が微細なマスクを通過する際に生じる歪みなどをあらかじめ計算し、マスクの設計を最適化する高度なソフトウェアです 。これにより、物理的な限界を超えて微細な回路を正確に描くことを可能にしています。
隠れた巨人:サービス&サポート事業
そして、ASMLの盤石な経営を支えるもう一つの柱が、サービス事業です。これには、納入した装置のメンテナンス、顧客サポート、そして性能を向上させるアップグレードなどが含まれ、売上の約2割を占める重要な収益源となっています 。
【エンジニアとしての体験談】 私が担当する製品開発でも、数千万円もする高価な測定器や製造装置を導入する際には、本体価格だけでなく、長期的な保守契約やサポート体制を最重要視します。ASMLのEUV装置は1台200億円以上もします。これが24時間356日、片時も止まらずに稼働し続けることが、TSMCやサムスンのような顧客にとっては文字通りの生命線です。
驚くべきことに、これまでに出荷されたASML製リソグラフィ装置の95%以上が、今も現役で稼働していると言われています 。これは、同社のサービスとサポートがいかに堅牢で、顧客との信頼関係がいかに深いかを物語っています。これは単なるアフターサービスではありません。顧客の生産ラインそのものを支える、極めて利益率の高い「サブスクリプション型」ビジネスなのです。
この事業ポートフォリオは、単なる製品の寄せ集めではありません。
- 顧客は最先端チップを作るためにASMLのEUV装置を買うしかありません 。
- その装置の性能を最大限に引き出すため、ASMLの計算リソグラフィ・ソフトウェアが必要になります 。
- 描いたパターンが正しいか検証するには、装置と最適化されたASMLの計測・検査ツールが不可欠です 。
- そして、数百億円の投資を無駄にしないため、世界で唯一メンテナンス可能なASMLと長期サービス契約を結ぶことになります 。
このように、各事業が相互に顧客をロックインする強力な「エコシステム」を形成しており、競合他社が一部分だけを真似しても決して入り込めない、強固なビジネスモデルを築き上げています。
その業界でのシェア、ランキング

ASMLは、半導体リソグラフィ装置市場において、議論の余地のないナンバーワン企業です 。その支配力は、技術の世代によってさらに際立ちます。
- EUV市場: シェア100%。文字通りの独占企業であり、競合は存在しません 。
- リソグラフィ装置全体: シェア**90%**以上。EUVだけでなく、DUV市場を含めても圧倒的なリーダーです 。
- 液浸ArF市場: 最先端DUV技術である液浸ArFにおいても、ニコンがわずかなシェアを持つのみで、ASMLが90%以上を占めています 。
かつてこの市場をリードした日本のニコンやキヤノンは、現在ではKrFやi-lineといった、より旧世代の技術や、特殊な用途が主戦場となっています 。
以下の表は、技術世代別の市場シェアをまとめたものです。ASMLの支配力が、いかに最先端技術に集中しているかが一目瞭然です。
| 技術 | ASML シェア | ニコン シェア | キヤノン シェア | 備考 |
| EUV (極端紫外線) | 100% | 0% | 0% | ASMLの完全独占。最先端半導体製造に必須。 |
| ArF Immersion (液浸ArF) | ~97% | ~3% | 0% | DUVの最先端技術。ASMLが圧倒的優位。 |
| ArF Dry (ドライArF) | ~81% | ~19% | 0% | ニコンが一定の存在感を持つも、ASMLが優勢。 |
| KrF | ~71% | ~2% | ~28% | キヤノンが一定のシェアを持つ成熟市場。 |
| i-line | ~18% | ~7% | ~75% | キヤノンが強みを持つ旧世代技術・特殊用途市場。 |
出典: 各種市場調査レポートのデータを基に作成
この表が示すのは、技術が高度化し、付加価値が高くなるほど、ASMLのシェアが100%に近づいていくという紛れもない事実です。彼らは、最も利益率の高い最先端市場を完全に掌握し、競合を旧世代の技術領域に追いやることで、圧倒的な地位を築いているのです。
その会社の収益、利益の推移

ASMLの技術的な支配力は、驚異的な財務成績となって表れています。
過去5年間で、同社の売上高は2019年の約118億ユーロから2023年には約276億ユーロへと、わずか4年で2倍以上に急成長しました 。純利益も2023年には約85億ドル(約76億ユーロ)に達し、営業利益率は常に30%を超えるという、製造業としては驚異的な高収益体質を誇ります 。
| 年度 | 売上高(10億ユーロ) | 営業利益(10億ユーロ) | 営業利益率 |
| 2019 | 11.8 | 2.8 | 24% |
| 2020 | 14.0 | 4.1 | 29% |
| 2021 | 18.6 | 6.8 | 36% |
| 2022 | 21.2 | 6.5 | 31% |
| 2023 | 27.6 | 9.0 | 33% |
出典: ASML公式発表、各種レポートを基に作成
この急成長は、単に半導体市場が好調だったから、というだけでは説明できません。グラフの傾きが急になっている2020年以降は、まさにTSMCやサムスンが7nm、5nmといった先端プロセスにEUVを本格導入し始めた時期と完全に一致します 。
つまり、ASMLの業績推移は、半導体業界全体の技術革新のペースを示すバロメーターそのものなのです。ムーアの法則を前進させるためには、彼らの装置が不可欠であり、その需要が爆発的な収益成長に直結しています。同社は2030年には売上高440億~600億ユーロという、さらなる成長目標を掲げています 。
その業界での特徴

ASMLがなぜ、これほどの技術的・市場的支配を確立できたのか。その特徴は、3つの巨大な「堀」によって守られた、難攻不落の城に例えることができます。
A) 技術の要塞:EUVという乗り越えられない壁
ASMLの最大の特徴は、競合他社が逆立ちしても真似できないEUVリソグラフィ技術を世界で唯一、実用化した点にあります。EUVは、従来のDUV(波長193nm)とは次元が違う、波長13.5nmという極めて短い光を使って回路を描く技術です 。これは単なる改良ではなく、物理法則の壁に挑むような、革命的な飛躍でした。
ASMLは、かつて「不可能」と言われた3つの超巨大な技術課題を解決しました。
- 光源:地球上に存在しない光をどう作るか? 波長13.5nmの光は、地球の大気には吸収されてしまうため、自然界には存在しません。ASMLは、ドイツのレーザー専門企業TRUMPF社と共同で、常識外れの光源を開発しました。その仕組みは、真空チャンバー内で、1秒間に5万個もの錫(すず)の微小な粒を射出し、そこに超強力なレーザーを2回照射して、錫を摂氏22万度のプラズマ状態に変え、目的のEUV光を発生させる、というものです 。 【エンジニアとしての視点】 これは、秒速70mで飛んでくる直径25ミクロン(髪の毛の半分以下)の錫の玉に、寸分の狂いもなくレーザーを2発当ててプラズマ化させるという、まさに神業です。しかも、それを1秒間に5万回、何ヶ月も安定して繰り返すのです。私が専門とするモーター制御や電源制御の比ではない、想像を絶する超絶技巧です。
- 真空:光の通り道すべてを宇宙空間に EUV光は、空気を含むあらゆる物質に吸収されてしまいます 。そのため、巨大な光源からウェーハに至るまで、光が通る全ての経路を、極めて高い真空状態に保つ必要があります。バス一台分もある巨大な装置内部を長期間にわたって高真空に維持し、その中でナノメートル単位の精密な動作を実現することは、機械工学、熱力学、材料科学の粋を集めた挑戦でした。
- レンズではなく鏡:原子レベルで平坦な反射鏡 従来の露光装置では、ガラス製のレンズで光を集光していましたが、ガラスはEUV光を吸収してしまいます。そのため、EUVでは光を「反射」させるしかありません。ここで登場するのが、ドイツの光学技術の巨人、カール・ツァイス SMT社が製造する特殊なミラーです。これはただの鏡ではありません。シリコンとモリブデンの薄膜を原子レベルの精度で何十層にも重ねた「ブラッグ反射鏡」であり、その表面の滑らかさは、常軌を逸しています 。 【エンジニアとしての視点】 カール・ツァイスが製造するこのミラーの表面を地球の大きさにまで拡大したとしても、表面の凹凸はわずか0.1mm程度に過ぎないと言われています。これほどの平面度を持つ物体を量産する技術は、現代科学の奇跡であり、ASML一社では到底実現不可能でした。
B) 鉄壁のエコシステム:「欧州連合」という名の供給網
ASMLの成功は、決して単独で成し遂げられたものではありません。むしろ、彼らの真の強みは、自社だけでは解決できない課題を、世界最高のパートナーを巻き込んで解決し、排他的なエコシステムを構築した点にあります。
- 光学系:カール・ツァイス SMT(ドイツ) 前述の超精密ミラーを含む、EUV装置の心臓部である光学システムは、ドイツのカール・ツァイス SMT社が独占的に供給しています。ASMLとツァイスは30年以上にわたる戦略的パートナーであり、2017年にはASMLがツァイス SMTに10億ユーロを出資し、24.9%の株式を取得しました 。これにより、両社の関係は単なる取引先から運命共同体へと昇華し、競合他社が入り込む隙間は完全になくなりました。ツァイスなくしてASMLなし、です。
- レーザー:TRUMPF(ドイツ) 光源で使われる世界最強の産業用CO2レーザーは、同じくドイツのTRUMPF社が供給しています 。
- 1,200社以上のパートナー連合 この他にも、25年以上の歳月をかけて、欧州を中心に約1,200社もの専門企業や研究機関が参加する巨大な開発連合が形成されました 。
かつてリソグラフィ市場の王者だったニコンやキヤノンがEUV開発から撤退した理由は、まさにここにあります 。彼らがEUVを実用化するには、ASMLが成し遂げた装置全体のシステム統合技術を開発するだけでなく、カール・ツァイスに匹敵する光学メーカーと、TRUMPFに匹敵するレーザーメーカーを自前で作り出すか、あるいは見つけ出す必要があったのです。これはもはや一企業の技術開発競争ではなく、国家や地域を巻き込んだ「産業エコシステム」の競争であり、ASML率いる欧州連合がこの競争に勝利したのです。
C) 地政学の要:技術が兵器になるとき
ASMLがEUV技術を100%独占しているということは、最先端のAI、軍事、スーパーコンピュータに使われる半導体の製造を、彼らが完全にコントロールできることを意味します。このため、ASMLの装置は単なる工業製品ではなく、国家間のパワーバランスを左右する戦略物資と化しています。
米国やオランダ政府が主導し、安全保障上の理由から最先端のEUV装置の中国への輸出を厳しく制限しているのは、その最もたる例です 。ASMLは今や、西側諸国にとって、技術的優位性を維持するための重要な地政学的資産となっているのです。
この会社の歴史

ASMLの今日があるのは、一朝一夕の成功ではありません。それは、無謀とも思える挑戦を続けた、 underdog(負け犬)からの壮大な物語でした。
- ささやかな始まり(1984年) ASMLは、フィリップスのオフィスの隣にあった雨漏りのする掘っ立て小屋から始まりました 。数人の従業員しかいない、小さな合弁事業でした。
- 巨人への挑戦(1990年代) 当時、リソグラフィ市場は日本のニコンとキヤノンが席巻していました。ASMLは後発の小さな挑戦者に過ぎませんでしたが、画期的なプラットフォーム「PAS 5500」シリーズの成功を機に、市場で確固たる地位を築き始めます 。
- ゲームチェンジャー:液浸リソグラフィ(2000年代) ASMLが競合を大きく引き離す決定的な転機となったのが、「液浸技術」の採用でした。これは、レンズとウェーハの間を純水で満たすことで、より短い波長の光を使ったのと同じ効果を得て、解像度を飛躍的に高める技術です。台湾の専門家、林本堅(Lin Ben-jian)氏が提唱したこの革新的なアイデアに対し、当時業界トップだった日本企業は懐疑的でしたが、ASMLは果敢に挑戦し、実用化に成功しました 。この勝利が、DUV市場でのリーダーシップを確立させ、EUVという壮大な夢に挑むための莫大な資金力をもたらしたのです。
- EUVへの長い道のり(1997年~2019年) EUVの研究開発は、1997年頃から始まりました 。それは、90億ドル以上の研究開発費と20年以上の歳月を要する、気の遠くなるような旅でした 。あまりの困難さに、業界では長年「EUVは永遠に来ない (EUV stands for ‘Eventually, UV’)」と揶揄されるほどでした。しかしASMLは諦めませんでした。2012年には、Intel、TSMC、サムスンという顧客自身が、開発を加速させるためにASMLに総額41億ドル以上を共同出資するという異例の事態が起こります 。これは、もはやASMLの成功が、半導体産業全体の未来そのものになっていたことの証です。
この歴史を通じて、ASMLは光源メーカーのCymer(米国)や検査装置メーカーのHermes Microvision(台湾)といった重要な企業を戦略的に買収し、自社のエコシステムをさらに強固なものにしていきました 。
設計/生産はどこで行っているか?

ASMLはオランダの企業ですが、その活動は世界中に広がっています。その配置は、極めて戦略的です。
- 頭脳と心臓:フェルドホーフェン(オランダ) グローバル本社は、研究開発、最終組立、そして世界中から集まる部品の統合を行う中心的なハブです 。全従業員の半数以上がここで働いています 。
- 卓越した技術を結集するグローバルネットワーク
- アメリカ: EUVの最重要部品である光源は、2012年に買収したCymer社があったカリフォルニア州サンディエゴで開発・製造されています。また、コネチカット州やアリゾナ州にも工場や研究開発拠点があります 。世界最高の技術を持つ企業を買収し、その人材と拠点をそのまま活用する戦略です。
- ドイツ: EUVのもう一つの心臓部である光学システムは、パートナーであるカール・ツァイス SMT社がドイツのオーバーコッヘンで製造しています。ASML自身もベルリンやドレスデンに拠点を持ち、光学部品やソフトウェア開発を行っています 。
- 台湾: アジア最大の製造拠点があります。これは、世界最大の半導体メーカーであり、ASMLの最重要顧客であるTSMCのすぐそばに拠点を構えることで、緊密な連携と迅速なサポートを実現するための戦略的な配置です。サービス、トレーニング、電子ビーム技術の主要拠点ともなっています 。
これは、単なるオフィスの分散ではありません。システムアーキテクチャの頭脳はオランダに集中させ、光源はアメリカの専門技術を、光学系はドイツの精密工学を活用し、そして最大の顧客の隣にアジアの製造・サービス拠点を置く。才能、技術、そして顧客との距離を最適化するために、緻密に計算され尽くしたグローバル戦略なのです。
まとめ

最後に、この記事の要点をまとめます。
ASMLは、フィリップスとASM Internationalの合弁事業から生まれた、オランダの企業です。
その圧倒的な支配力は、決して偶然の産物ではありません。それは、3つの強固な柱の上に築かれています。
- 技術的独占: 光源、真空、ミラーという「不可能」と言われたEUVリソグラフィの物理的・工学的課題を、世界で唯一解決したこと。
- 戦略的エコシステム: カール・ツァイスやTRUMPFといった世界最高の専門企業と、資本関係を含む排他的な「欧州連合」を形成し、他社が模倣不可能な供給網を構築したこと。
- 長期的ビジョン: 競合他社が躊躇し、撤退する中で、20年以上、1兆円を超える投資を継続するという、揺るぎない信念と長期的な視点を持ち続けたこと。
ASMLは、もはや単なる一企業ではありません。ムーアの法則の継続を司り、世界のデジタル化のペースを決定する、社会インフラそのものです。私たちが次に手にするであろう革新的なAIデバイスやスマートフォンの内部には、必ずこのオランダの巨人が作り出した装置の痕跡が、微細な回路として刻まれているのです。
一人のエンジニアとして、これほどまでに畏敬の念を抱かせる企業は、他にありません。

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