こんにちは、エンジニアブロガーのろぼてくです。
先日、友人から「ナカバヤシのマウスって、安くて面白い形のが多いけど、実際どうなの?文房具の会社だよね?」と聞かれました。
確かに!「フエルアルバム」や「ロジカル・エアーノート」のイメージが強いナカバヤシですが、PC周辺機器もたくさん出しています 。エンジニア歴10年以上、電気製品の設計や品質の仕事をしてきた私から見ても、ナカバヤシの製品は非常に興味深い存在です。
なぜなら、彼らの製品には「特定のニーズ」に応えようとする、はっきりとした設計思想が感じられるからです。
今回は、この「ナカバヤシ」というメーカーを、特に「マウス」に絞って、元設計者の視点から徹底的に掘り下げていきたいと思います。
- 電機メーカー勤務
- エンジニア歴10年以上
- 品質担当経験あり

結論:ナカバヤシはどこの国のメーカーか?

結論から言うと、ナカバヤシは日本のメーカーです。
1923年(大正12年)に創業者の中林安右衛門氏が大阪で製本所として創業したのが始まりで、100年以上の歴史を持つ老舗企業です 。1951年に株式会社として設立され、現在では大阪と東京に本社を構え、東京証券取引所スタンダード市場に上場しています 。
もともとはアルバムや手帳といった紙製品や製本業が事業の核でした 。そこからシュレッダーなどの事務機器、そしてPC周辺機器へと事業を拡大してきた歴史があります。この「紙製品・オフィス用品のプロフェッショナル」という出自が、彼らのマウス作りにも影響を与えているように感じます。単なるハイテク製品としてではなく、「毎日使う道具」としての快適さを追求する視点が、製品の随所に見られるのです。
結論:買うことをおススメできるか?

これも結論から申し上げます。ナカバヤシのマウスは**「特定の人には、非常におすすめできる」**です。
すべての人にとってのベストな選択肢ではありません。しかし、価格、特徴、そしてあなたの使い方に合致すれば、ロジクールなどの有名ブランド製品にも劣らない、素晴らしい相棒になるポテンシャルを秘めています。
- こんな人におすすめ:
- 手首の疲れを軽減するエルゴノミクス形状のマウスを、手頃な価格で試したい人
- オフィスや図書館など、静かな場所で使える静音マウスを探している人
- 持ち運び用のコンパクトなマウスや、省スペースで使えるトラックボールが欲しい人
- 長いWebページや資料を快適に閲覧できる「高速スクロール機能」に魅力を感じる人
- こんな人には合わないかも:
- とにかく最高の耐久性を求める人
- プロのゲーマーやクリエイターなど、極限の性能やミリ秒単位の応答速度を求める人
- ボタンの機能割り当てなどを、専用ソフトで細かくカスタマイズしたい人
ナカバヤシのマウスは、高価な多機能マウスの「特定の美味しい機能」を抽出し、見事なコストパフォーマンスで提供してくれる、ニッチで賢い選択肢と言えるでしょう。
このメーカーの製品はよい製品か?

ナカバヤシは、アルバムやノート、シュレッダーといった主力事業に加え、オフィス家具、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)サービス、さらには木質バイオマス発電やニンニク栽培といったエネルギー・農業分野まで、驚くほど多角的な事業を展開しています 。
PC・スマホ関連用品は「Digio²(デジオツー)」という統一ブランドで展開されています 。
一見すると「手広くやりすぎて、一つ一つの品質は大丈夫?」と心配になるかもしれません。これはエンジニアとしてよく考える点です。専門メーカーに比べて開発リソースが分散するのでは?と。
しかし、見方を変えれば、多様な製品で培った人間工学や材料に関する知見を、マウスのような製品に活かしているとも言えます。特に、オフィス家具や収納用品で培った「働く人の環境を快適にする」というノウハウが、マウスの握りやすさや疲れにくさといったエルゴノミクス設計に反映されているのではないでしょうか。彼らのマウスがオフィスワーカーに響く特徴(静音性、省スペースなど)を備えているのは、この企業DNAの表れだと私は分析しています。
このメーカーの生産地(工場)はどこか?

ここは多くの人が誤解しやすいポイントなので、はっきりと分けて説明します。
- 会社は「日本」
- マウスの生産地は「中国」
ナカバヤシは、島根県や兵庫県に自社工場を持ち、アルバムや手帳、製本といった伝統的な製品を国内で生産しています 。これらはナカバヤシの技術の根幹を支える重要な拠点です。
一方で、マウスをはじめとする「Digio²」ブランドのPC周辺機器は、中国で製造されています。これは製品の仕様欄に明記されています 。
「え、中国製なの?」とがっかりする必要は全くありません。私も設計者時代、中国の工場と何度もやり取りをしましたが、現在の中国の製造技術は非常に高いレベルにあります。重要なのは、どこの国で作るかよりも、**「メーカーがどのような品質基準で製造を管理しているか」**です。iPhoneをはじめ、世界中の多くのトップブランドの製品が中国で製造されているのが良い例ですね。
設計はどこで行っているか?

製品の設計拠点について、公式サイトなどでは明確に言及されていません 。しかし、製品の特徴や業界の慣習から、ある程度推測することができます。
おそらく、**「コンセプト設計やUXデザインは日本、詳細な機構・電子設計は中国の製造パートナーと共同」**というハイブリッドモデルを採用している可能性が高いです。
- コンセプト・UX設計(日本): 「神速」のようなユニークな機能の発案 、日本人の手の大きさに合わせたエルゴノミクス形状の追求 、静音性といった市場ニーズの汲み取りなど、製品の根幹となるアイデアや使い心地に関する部分は、日本の本社部門が主導していると考えられます。ナカバヤシの採用情報には研究開発部門の記載もあり、こうした製品企画機能が存在することを示唆しています 。
- 詳細設計・製造(中国との連携): 具体的な部品の選定、基板の設計、金型の製作といった量産に向けた詳細なエンジニアリングは、製造を委託している中国のパートナー企業と密に連携しながら進めているはずです。このモデルは、日本のユーザーニーズを的確に捉えた製品を、中国の巨大なサプライチェーンと製造技術を活用してコストを抑えながら実現するための、最も効率的な方法です。
この体制だからこそ、ユニークな特徴を持ちながらも、競争力のある価格の製品を生み出せているのです。
品質は大丈夫か?

品質保証の仕事をしていた者として、この点は最も気になるところです。ここでも「仕組みとしての品質」と「製品としての品質」の2つの側面から見ていきましょう。
- 仕組みとしての品質管理(プロセス品質): ナカバヤシは、品質マネジメントの国際規格である「ISO9001」の認証を取得しています 。これは、製品の品質を維持・向上させるための社内ルールやプロセスが、国際的な基準を満たしていることの証明です。採用情報を見ても、品質管理や品質保証の専門職を募集しており、会社として品質管理体制を構築・維持しようという意思が明確に見て取れます 。つまり、何か問題が起きた時に原因を調査し、再発防止に努める「仕組み」はしっかりと持っている、信頼できる企業だと言えます。
- 製品としての品質(製品信頼性): 一方で、ユーザーレビューに目を向けると、耐久性に関する指摘が散見されます。特に「1年足らずでホイールが空回りするようになった」という声は複数見られました 。また、あるレビューでは「静音スイッチは構造上、通常のスイッチより耐久性が劣る」「表面のラバー塗装は経年でベタつく可能性がある」といった、的確な指摘もなされています 。
これは、品質管理がずさんだという話ではありません。**「価格と機能を実現するための、意図的なエンジニアリング上のトレードオフ」**の結果だと私は見ています。
例えば、数千円高い高級マウスに使われる高耐久の光学式エンコーダーの代わりに、より安価な機械式エンコーダーをホイールに採用することで、製品価格を抑える。静音性を実現するために、クリック感や寿命で少し劣るスイッチを選ぶ。これは、製品のターゲットユーザーと価格帯を考えた上での、合理的な設計判断なのです。
つまり、ナカバヤシのマウスの品質は**「価格相応の期待値の中で、特徴的な機能にリソースを集中させたもの」**と理解するのが適切でしょう。数年で買い替える消耗品と割り切れば、その機能的なメリットを十分に享受できます。
このメーカーの製品は買っても大丈夫?評判は?

実際に使っているユーザーの声を見てみましょう。良い点、悪い点、両方からナカバヤシのマウスの実像に迫ります。
良い口コミ
- 抜群の握り心地とフィット感: 「エルゴノミクスデザインで手首が楽になった」「女性の手にピッタリ」「薬指の位置まで考えられていてフィット感が良い」といった声が非常に多いです 。特に手の小さい人や、長時間のPC作業で疲れを感じる人から高く評価されています。
- 静音性: 「クリック音が静かで周りを気にせず使える」という点は、オフィスや家族がいるリビング、寮生活などで使うユーザーにとって大きなメリットになっています 。
- ユニークな機能とデザイン: 省スペースで使える小型のトラックボールは、「持ち運びに便利」「このサイズは他にない」とニッチな需要を掴んでいます 。また、ボールを市販品に交換してカスタマイズできる点も、ガジェット好きの心を楽しませています 。
悪い口コミ
- 耐久性、特にホイールの弱さ: 最も多く指摘されているのが耐久性の問題です。「数ヶ月〜1年でホイールが効かなくなった」というレビューは、残念ながら複数の製品で見られます 。価格を考えれば消耗品と割り切る声もありますが 、この点は購入前に認識しておくべき最大の注意点です。
- ボタン配置のクセ: 一部のモデルでは、ボタンの配置に疑問を呈する声があります。「DPI(速度)切り替えボタンが『戻る』ボタンのすぐ上にあって誤操作しやすい」 、「トラックボールのホイール位置が独特で慣れが必要」 など、購入前に写真でしっかり確認した方がよさそうです。
- 機能の制限: 上位ブランドの製品と比較すると、専用ソフトウェアによるボタンの機能割り当てができないモデルが多いようです 。また、表面のラバー塗装が数年で劣化し、ベタつく可能性を指摘する声もありました 。
これらの評判から、ナカバヤシのマウスは「尖った長所と、価格相応の短所を併せ持つ製品」であることがわかります。自分の求めるものが長所と合致すれば、非常に満足度の高い買い物になるでしょう。
このメーカーのおすすめ製品は?

では、具体的にどのモデルを選べばいいのでしょうか?ここでは私のエンジニア目線で、エントリー・ミドル・ハイエンド(特定用途)の3つのカテゴリから、特におすすめのモデルをピックアップしてご紹介します。
まず、おすすめモデルの比較表をご覧ください。
| カテゴリ | モデル名 | 想定価格 | 接続 | 特徴 | こんな人におすすめ |
| エントリー | 有線BlueLEDマウス 3ボタン (例: MUS-UKT115) | 約1,000円 | 有線 | シンプル、高コスパ | とにかく安く、基本的なマウスが欲しい人 |
| ミドルレンジ | 無線静音5ボタンBlueLEDマウス (例: MUS-RKF169) | 約3,000円 – 4,000円 | 無線 | 静音、エルゴノミクス形状 | オフィスや自宅で快適に使える、標準的なマウスが欲しい人 |
| ハイエンド | 神速マウス (例: MUS-RKF164) | 約4,000円 – 6,000円 | 無線 | 高速スクロール、エルゴノミクス | 長い資料やウェブサイトを多用する人 |
| 特定用途 | 小型トラックボール (例: MUS-TRLF184) | 約5,000円 – 7,000円 | 無線/BT | 省スペース、カスタマイズ性 | 省スペースで作業したい、トラックボール入門者 |
エントリーモデル:有線BlueLEDマウス 3ボタン (例: MUS-UKT115)
これは「とりあえずマウスが必要」「安価でも信頼できるものがいい」という時のための選択肢です。実売価格は1,000円を切ることもあり、圧倒的なコストパフォーマンスを誇ります 。
設計もシンプルで、無線接続のトラブルや電池切れの心配がないのが有線モデルの利点。基本的なクリックとスクロールができれば十分、という方には最適な一台です。日本の老舗メーカー品がこの価格で手に入るという安心感は、大きな価値があります。
ミドルレンジ:無線静音5ボタンBlueLEDマウス (例: MUS-RKF169)
この価格帯こそ、ナカバヤシの真骨頂と言えるでしょう。大手ブランドならもう数千円はするであろう**「ワイヤレス」「5ボタン」「静音」「エルゴノミクス」**という付加価値を、手頃な価格で実現しています 。
レビューでも「握りやすい」「静か」と評判で、在宅勤務やオフィスでの使用にまさに最適です 。耐久性の懸念はありますが、それを補って余りある快適性をこの価格で得られるのは大きな魅力。ナカバヤシのマウスを初めて買うなら、まずこのクラスから試してみるのがおすすめです。
ハイエンド/特定用途①:神速(Shinsoku)マウス (例: MUS-RKF164BK)
「神速」という名前は伊達じゃありません。このマウス最大の特徴は、ホイールを押し込むだけで「通常スクロール」と、ホイールが抵抗なく回り続ける「高速スクロール」を切り替えられる機能です 。
これは、長いExcelシートやPDF、プログラムのコード、Webサイトを頻繁に扱う人にとって、劇的に作業効率を上げてくれる機能です。私も仕事柄、長いドキュメントを読みますが、この機能があるかないかでスクロールのストレスが全く違います。
さらに、手首のねじれを軽減する14度の傾斜がついたエルゴノミクスデザイン、静音スイッチも採用しており、快適性と機能性を高いレベルで両立しています 。2019年にはグッドデザイン賞も受賞しており、その設計思想が高く評価されていることがわかります 。特定の作業が多い人にとっては、価格以上の価値をもたらす一台です。
ハイエンド/特定用途②:小型トラックボール (例: MUS-TRLF184)
トラックボールはマウス自体を動かさないため、腕や肩が疲れにくく、狭い場所でも使えるのが利点ですが、大きいモデルがほとんどでした。この製品は、その常識を覆す**「持ち運べる小型トラックボール」**という、ありそうでなかったニッチな需要に見事に応えています 。
カフェや新幹線のテーブルなど、限られたスペースで作業する際に絶大な威力を発揮します。さらに面白いのが、直径34mmのボールを市販の同サイズのボールに交換して、見た目や操作感をカスタマイズできる点 。自分だけの一台に仕上げる楽しみがあります。
ボタン配置に少しクセがあるようですが 、省スペース環境で本格的なポインティングデバイスを使いたい人、トラックボール入門として面白い一台を探している人には、非常に魅力的な選択肢です。
まとめ

今回の調査でわかったことをまとめます。
- ナカバヤシは、100年以上の歴史を持つ日本の老舗メーカーである。
- マウスの企画やコンセプト設計は日本で行い、製造は世界標準である中国の工場で行っている。
- 製品の強みは、エルゴノミクス、静音性、高速スクロール、小型トラックボールといった、特定のニーズに応えるユニークな機能を、高いコストパフォーマンスで提供している点にある。
- 品質は、価格とのトレードオフ。最高の耐久性を追求するのではなく、手頃な価格で特徴的な機能を実現することに重点を置いた設計がなされている。
ナカバヤシのマウスは、「完璧な100点」を目指す製品ではありません。むしろ、「特定のニーズを持つ人にとっての80点」を、非常に高いコストパフォーマンスで実現している製品だと言えます。
あなたの使い方、手の大きさ、そして「マウスに何を一番求めるか」をしっかり考えれば、ナカバヤシは最高の選択肢の一つになり得ます。この記事が、あなたのマウス選びの助けになれば幸いです。

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