2. 導入:エンジニアの視点から見る「見守りカメラ」の選び方
2.1 なぜ「見守りカメラ」選びは難しいのか
こんにちは、ブログ「oyako-programming.com」運営、エンジニアブロガーの「ろぼてく」です。普段は電気製品の設計・品質保証業務に10年以上携わっており、日夜、回路図と睨めっこしたり、工場の生産ラインで歩留まり向上に奔走したりしています。
さて、今回のテーマは、最近Amazonや楽天のランキングで急上昇中の**「Reolink(リオリンク)」**です。
愛するペット(犬・猫)を見守るためのカメラ選びにおいて、皆さんは何を基準に選んでいますか?「画素数」でしょうか?「デザイン」でしょうか?それとも「価格」でしょうか?
一般のガジェットレビューでは「画質が綺麗」「アプリが使いやすい」といった表面的な評価(UI/UXレベル)に終始しがちです。しかし、我々エンジニアの視点は少し異なります。
「この価格でこの機能を実装している裏には、どのメーカーのSoC(System on Chip)を使っているのか?」
「筐体の放熱設計(Thermal Design)は、24時間365日の連続稼働に耐えうるのか?」
「ファームウェアのセキュリティパッチは、どのような頻度で、どの程度の深刻度まで対応しているのか?」
特に「安価なネットワークカメラ」というカテゴリは、セキュリティリスクと隣り合わせの領域です。家庭内のプライベートな映像を扱うデバイスだからこそ、そのメーカーが「どこの国の、どのようなバックグラウンドを持つ企業なのか」を知ることは、スペック表の数字以上に重要な「非機能要件」なのです。
2.2 本レポートの調査手法と目的
本レポートでは、単なるカタログスペックの比較に留まらず、企業の資本構造、製造拠点のサプライチェーン、採用されている技術スタック、そして過去の脆弱性対応履歴まで、エンジニアリングの観点から徹底的に調査しました。
「中華製カメラは情報が抜かれるのではないか?」という漠然とした不安に対し、技術的なファクト(事実)に基づいて解像度を上げ、本当に愛犬・愛猫のために導入すべき製品なのかをジャッジします。2万文字に迫るこの長編レポートが、あなたの「安心できる見守り環境」構築の一助となることをお約束します。
- 電機メーカー勤務
- エンジニア歴10年以上
- 品質担当経験あり

3. 調査結論:Reolinkは「どこの国」のメーカーか?

3.1 企業構造の複層的な分析:香港と深センの役割分担
結論から申し上げますと、Reolinkは**「香港(Hong Kong)に本社登記を置き、中国・深セン(Shenzhen)を実質的な開発・製造拠点とする企業」**です 1。
調査によると、Reolinkのグローバルブランドの主体は**「Reolink Innovation Limited」**であり、本社所在地は香港に登記されています 2。香港は金融センターとしての機能や、対外的な法務・知財管理のハブとして機能しており、多くの中国系テック企業が国際展開の足がかりとして本社を置く場所です。
しかし、これはあくまで商流や資本政策上の「顔」に過ぎません。エンジニアとして注目すべき「実体(設計・製造の実働部隊)」は、中国本土のテック集積地である深セン市にあります。
具体的には、**「Shenzhen Reolink Technology Co., Ltd.(深圳市睿联技术有限公司)」**という法人が深センに存在し、ここがR&D(研究開発)と生産管理の中枢を担っています 3。創業者のColin Lau氏によって2009年に設立され、以来、外部からの大規模なベンチャーキャピタル出資を受けずに(Unfunded)、自己資本中心で成長してきたという特徴があります 3。
| 法人名 | 役割 | 所在地 | 設立年 | 備考 |
| Reolink Innovation Limited | グローバル本社・販売統括 | 香港 (Hong Kong) | 2009 | 対外的なブランド主体 1 |
| Shenzhen Reolink Technology Co., Ltd. | 研究開発 (R&D)・製造管理 | 深セン (Shenzhen, China) | 2009 | 実質的な技術拠点 4 |
| Reolink Innovations Inc. | 北米販売・物流・サポート | デラウェア州 (USA) | – | 米国市場向けの拠点 1 |
3.2 「Unfunded(自己資本経営)」が意味するもの
特筆すべきは、ReolinkがTracxnのデータにおいて「Unfunded(未上場・外部資金調達なし)」と分類されている点です 3。
競合であるEzviz(Hikvision傘下)やWyze(大規模な資金調達を実施)と比較して、Reolinkは外部投資家の意向に左右されにくい経営体制を持っていると推測されます。これはエンジニアリングの観点から見ると、「短期的な株価対策や無理なコストカットよりも、製品開発のサイクルや品質維持にリソースを集中できる環境」である可能性を示唆しています。創業から15年以上、変化の激しいIoT業界で生き残っている事実は、その製品力が市場に受け入れられている証左と言えるでしょう。
3.3 「米国企業」という誤解の正体と真実
ネット上の一部情報では「Reolinkはアメリカのデラウェア州の会社」という記述が見られますが、これは正確ではありません。デラウェア州ウィルミントンにある「251 Little Falls Drive」という住所は、多くの海外企業が米国法人を登記する際によく利用するエージェント(代理人)の住所であり、ここには開発部隊も工場も存在しません 1。
米国法人はあくまで北米市場向けの販売・物流・サポート拠点であり、製品のDNAは完全に**「中国・深セン製」**です。これを「中国企業であることを隠している」とネガティブに捉える向きもありますが、グローバルにハードウェアを展開する企業としては標準的なコーポレートストラクチャーです。重要なのは「どこの国か」というレッテルよりも、「どのような品質管理が行われているか」です。次章以降で、その技術的実力に迫ります。
4. 結論:推奨可否(エンジニア視点での判定)

推奨判定:条件付きで「強く推奨(Highly Recommended)」
電気設計エンジニアとしての結論は、**「コストパフォーマンスとハードウェア性能のバランスにおいては、現在市場で入手可能なペットカメラの中でトップクラスである」というものです。
特に、同価格帯の国内メーカー製カメラや、他の格安中華カメラと比較した場合、「光学系の設計」「ローカル機能の開放度」「ファームウェアの更新頻度」**においてReolinkが頭一つ抜けています。
4.1 このカメラが「刺さる」ユーザー(Goサイン)
以下の条件に当てはまるユーザーには、自信を持っておすすめできます。
- 「画質」に妥協したくない方:単なる画素数競争ではなく、レンズのF値や光学ズーム(E1 Zoomの場合)の実用性を重視する方。ペットの目ヤニや毛並みの状態まで確認したい場合、デジタルズームでは限界があります。
- 「サブスク地獄」から脱却したい方:Reolinkの最大の強みは、AI検知(人・ペット)や録画機能に追加費用がかからない点です 5。月額数百円の積み重ねを嫌うコスト意識の高い方には最適です。
- 自分でデータ管理をしたい「ギーク寄り」な方:ReolinkはRTSP/ONVIFといった標準プロトコルに対応しており、SynologyなどのNAS(Network Attached Storage)や、Home Assistantなどの自作スマートホーム環境に組み込むことができます 7。メーカーのクラウドに依存せず、自分の手元にデータを残したいエンジニア気質な飼い主には、これ以上の選択肢はほぼありません。
4.2 推奨できないユーザー(Stopサイン)
一方で、以下のようなユーザーには向きません。
- 完全な「脱中国」を求める方:サーバーの一部(P2P接続用のリレーサーバーなど)や製造プロセスが中国にあることに生理的な拒否感がある場合は、台湾製(Vivotek等)や欧米製の業務機(Axis等)を選ぶべきです。ただし、価格は5〜10倍になります。
- iOSアプリの「爆速挙動」を求める方:2025年時点の最新アプリバージョンにおいて、iOS環境での接続に数秒〜10秒程度のラグが発生する事例が報告されています 9。「アプリを開いた瞬間にライブ映像が見たい」というリアルタイム性を最優先する場合、ストレスになる可能性があります。
- ネットワーク設定が一切わからない方:初期設定は簡単ですが、セキュリティを高めるためのポート制限や、5GHz帯Wi-Fiの接続トラブルシューティングなど、多少のITリテラシーが求められる場面があります。
5. 徹底比較:おすすめ製品3ランク(ペット見守り編)

Reolinkには多数のラインナップがありますが、エンジニア視点で「ペット見守り」に特化して選定しました。ハードウェアスペックに基づいた辛口ランキングです。
第1位:Reolink E1 Zoom
〜光学3倍ズームこそ正義。ペットの表情まで捉える最強のエントリー機〜
| スペック項目 | 詳細仕様 | エンジニアのコメント |
| 解像度 | 5MP (2880×1616) / 4Kモデルあり | 500万画素はスマホ確認に最適解。帯域と画質のバランスが良い。 |
| ズーム | 光学3倍ズーム | これが決定打。レンズ群を動かして画質劣化なしに拡大可能 11。 |
| 視野角 | 水平355° / 垂直50° | 部屋の死角をほぼゼロにできるPTZ機構。 |
| AI検知 | 人・ペット検知 (オンボード処理) | 誤検知を減らすエッジAI搭載。 |
| Wi-Fi | デュアルバンド (2.4/5GHz) | Wi-Fi 6対応モデルも登場。干渉に強い5GHzが使えるのは大きい 12。 |
【エンジニア推奨理由】
私が最も推すのはこの「E1 Zoom」です。最大の理由は、商品名にもある通り**「光学ズーム」**の搭載です 5。
一般的な見守りカメラの「デジタルズーム」は、撮影した画像の一部を切り取って引き伸ばす処理です。これでは、ズームすればするほど画素が粗くなり、ブロックノイズが発生します。結果として「ペットが何かを食べているのはわかるが、それが誤飲してはいけない異物なのか、ただのおやつなのか判別できない」という事態に陥ります。
対してE1 Zoomは、コンパクトデジカメのようにレンズ自体が物理的に前後して焦点距離を変える「光学ズーム」を搭載しています。これにより、画質を劣化させることなく被写体に寄ることができます。リビングの端で寝ている猫の、お腹の上下動(呼吸の有無)まで鮮明に確認できるレベルです。この価格帯(1万円以下〜前後)でPTZ(パン・チルト・ズーム)全てを電動化したメカ設計は見事です。
また、オートトラッキング(自動追尾)機能も備えており、部屋中を動き回る犬を追いかけるのに最適です 5。分解情報によると、内部には台湾Novatek社製の高性能な画像処理チップが搭載されており、画質へのこだわりが感じられます 14。
第2位:Reolink E1 Pro
〜コスパの鬼。ワンルームやケージ監視ならこれで十分〜
| スペック項目 | 詳細仕様 | エンジニアのコメント |
| 解像度 | 4MP / 5MP (バージョンによる) | Zoomモデルと同等の高精細さ。 |
| ズーム | デジタルズームのみ | ここがZoom版との最大の違い。広角監視向け。 |
| F値 | F1.6 | 非常に明るいレンズ。暗所性能が高い 15。 |
| AI検知 | 人・ペット・泣き声検知 | 赤ちゃん見守りも想定した音声検知が強力。 |
【エンジニア推奨理由】
「ズーム機能はいらない、部屋全体が見渡せればいい」という方にはこちら。E1 Zoomから光学ズーム機構を省いたモデルですが、首振り機能(パン・チルト)やAI検知機能は健在です 16。
特筆すべきは価格の安さです。セール時には数千円台で購入できることもあり、複数の部屋に設置して死角をなくす「多点配置(マルチカメラ)」戦略をとる場合に最適です。
レンズのF値が1.6と非常に小さく(=明るく)、光を多く取り込めるため、夕暮れ時や薄暗い部屋でもノイズの少ないクリアな映像が得られます。ペットが留守番をする薄暗い室内環境では、画素数以上にこの「レンズの明るさ」が効いてきます。
第3位:Reolink Argus PT Ultra (または Altas PT Ultra)
〜電源コードからの解放。庭やベランダ、配線困難な場所へ〜
| スペック項目 | 詳細仕様 | エンジニアのコメント |
| 解像度 | 4K 8MP | バッテリー機としては驚異的な高解像度。 |
| 電源 | バッテリー + ソーラーパネル | 電源工事不要。ソーラー併用でメンテナンスフリー化可能 12。 |
| AI検知 | 人・ペット・車両検知 | 敷地内に入ってくる車や動物も検知可能。 |
【エンジニア推奨理由】
「コンセントが近くにない」「ベランダに出る猫を見守りたい」「庭で遊ぶ犬を確認したい」というニーズに応えるのがバッテリー機です。
Reolinkのバッテリー機は、PIR(受動型赤外線)センサーとAI検知を組み合わせた待機電力の制御が優秀です。普段はスリープ状態にあり、熱源(動物や人)が動いた瞬間だけ起動して録画・通知を行います。
純正のソーラーパネルと組み合わせれば、日照条件さえ良ければ充電の手間から解放されます。Wi-Fiの届く範囲であればどこにでも置ける自由度は、配線嫌いなエンジニアとしても魅力的です。ただし、常時録画はできず(動体検知時のみ録画)、スリープからの復帰に1秒程度のタイムラグがある点は、有線モデルに対するトレードオフとして理解しておく必要があります。
6. 特徴:エンジニアが唸る「Reolinkの技術的特異点」
Reolinkが他の格安カメラと一線を画している技術的なポイントを、設計者の視点で深掘りします。
6.1 エッジAIによるローカル処理(NPUの活用)
Reolinkの「ペット検知」や「人物検知」は、クラウド(サーバー)側で処理するのではなく、カメラ本体に搭載されたSoC内の**NPU(Neural Processing Unit)**で処理されています 5。
他社製品の多くは、映像をクラウドにアップロードしてからAI解析を行うため、月額料金が発生したり、検知までの遅延が大きかったり、プライバシー上の懸念があったりします。
一方、Reolinkは「エッジコンピューティング」のアプローチを取っています。
- メリット1(プライバシー): 映像データが解析のために外部サーバーに送信され続けるわけではない。
- メリット2(即応性): インターネット回線が一時的に切断されていても、ローカルでの録画とAI検知・追尾は継続される。この自律性の高い設計思想は、システムとしての堅牢性を重視するエンジニアとして高く評価できます。
6.2 光学ズームメカニズムの小型化技術
E1 Zoomの筐体サイズ(直径約8cm)の中に、パン(水平)・チルト(垂直)用のステッピングモーター2基に加え、ズームレンズ用の駆動機構を押し込んでいる点は、メカ設計として非常に秀逸です 19。
通常、可動部(Moving Parts)が増えれば故障率(Failure Rate)は上がります。しかしReolinkは、レンズユニットをモジュール化し、メイン基板とフレキシブルケーブル(FPC)で接続する構造を採ることで、量産性と耐久性をバランスさせています。
分解動画などを分析すると、内部の空間効率が非常に高く、熱源となるWi-FiモジュールやSoCからの放熱経路も考慮されていることが伺えます。
6.3 徹底した「サブスクリプション・フリー」のビジネスモデル
多くの競合(RingやArlo、国内の通信キャリア系サービスなど)が、AI検知やクラウド録画を月額課金(サブスクリプション)の壁の向こう側に置いています。ハードウェアを安く売り、サービス料で回収するモデルです。
対してReolinkは、**「ハードウェアを買えば機能はフル開放」**というビジネスモデルを貫いています 6。
- AI検知:無料
- SDカード録画:無料
- プッシュ通知:無料
- RTSP/ONVIF出力:無料これは、「ハードウェアの売り切りで利益を出す」という、古き良き製造業の姿勢です。NASへのRTSP出力を標準で開放している点も、ユーザーにデータの主権(Data Sovereignty)を持たせるという点で、世界中のエンジニア層から厚い支持を得ている最大の理由です。
7. 生産地・製造拠点:深セン「世界の工場」の実力

Reolinkの製品は、紛れもなく**「Made in China(深セン)」**です。
具体的には、深セン市宝安区(Baoan District)の石岩街道(Shiyan Street)にある「Yuanling Industrial Park(元嶺工業園)」などが製造・物流の拠点として確認されています 4。
7.1 深セン製造=低品質、は過去の話
10年前であれば「中国製=安かろう悪かろう」というイメージがありましたが、現在の深センは事情が異なります。DJI(ドローン世界最大手)、Huawei、Ankerなどがひしめくこのエリアは、電子部品のサプライチェーンが世界で最も集積している「ハードウェアのシリコンバレー」です。
部品調達から試作(Prototyping)、量産(Mass Production)までのリードタイムが圧倒的に短く、品質改善のサイクルも高速です。
7.2 サプライチェーンの優位性
Reolinkのようなファブレス(あるいは工場を持つ準ファブレス)メーカーにとって、深センに拠点を置くことは、最新のイメージセンサー(Sony製など)やSoC(Novatek製など)をいち早く、かつ安価に製品に組み込めることを意味します。
例えば、Reolink製品の筐体成形の品質(プラスチックのバリの無さ、勘合の精度)は年々向上しており、これは深セン周辺の金型技術の向上とリンクしています。Reolinkは単に工場に丸投げするのではなく、自社で厳格な品質基準(QC)を設け、生産ラインを管理していると考えられます。そうでなければ、これほど多品種の製品を世界中で安定供給することは不可能です。
8. 設計地:R&D(研究開発)の中枢

設計(Design)も同様に深センで行われています。
Reolink Innovation Limitedの求人情報や企業プロフィールを見ると、ハードウェアエンジニア、組み込みソフトウェアエンジニア、AIアルゴリズムエンジニアを深センで多数採用しています。
8.1 採用チップセット(SoC)からの分析:Novatekの採用
分解情報やファームウェア解析によると、Reolinkのカメラ(特にE1 Zoom系)には、台湾のNovatek(ノバテック)社製のSoC(例:NT985xxシリーズ)が多く採用されている形跡があります 14。
Novatekは、高品質なドライブレコーダーやプロ向けの監視カメラ用チップで定評があるメーカーです。彼らのチップはISP(Image Signal Processor)の性能が高く、WDR(ワイドダイナミックレンジ)や低照度下でのノイズリダクション処理に優れています。
安価なカメラに使われる無名のチップではなく、実績あるメーカーのチップを選定している点に、Reolink設計陣の「画質へのこだわり」が見て取れます。これは、単にコストダウンだけを目指した製品ではないことの証明です。
8.2 ファームウェアの自社開発力
Reolinkは頻繁にファームウェアのアップデートを行っています 23。例えば、E1 Outdoorのアップデート履歴を見ると、ガードポイント(監視位置)のズレ修正や、ペット検知アルゴリズムの改善などが細かく行われています。
ODM製品(他社の設計を買って自社ブランドのシールだけ貼った製品)の場合、こうした細かいバグ修正や機能改善を行うことは困難です。Reolinkが自社内に強力なソフトウェア開発部隊を持ち、ユーザーからのフィードバックを製品に反映させるDevOps体制を敷いていることは間違いありません。
9. 品質:エンジニアによる「意地悪な」視点での評価

製品の信頼性を測るため、あえて厳しい視点(意地悪な視点)で品質を評価します。
9.1 ハードウェアの堅牢性と寿命
筐体は一般的なABS樹脂製ですが、プラスチックの肉厚や合わせ目の精度(チリ合わせ)は良好です。
懸念点は、PTZ(首振り)機構の耐久性です。内部は樹脂製のギアで駆動されており、外部から手で無理やり首を回すとギア欠けのリスクがあります 19。これは構造上の宿命ですが、設置時に子供やペットが触れない位置に取り付けるなどの配慮が必要です。
また、モーターの動作音は非常に静かですが、経年劣化によりグリスが乾くと異音が発生する可能性があります。とはいえ、数千円〜1万円台の製品としては十分なMTBF(平均故障間隔)を持っているという印象です。
9.2 熱設計と連続稼働
4K録画やAI処理はチップに負荷をかけ、発熱を伴います。Reolinkのカメラは比較的小型であるため、長時間稼働させると本体(特にレンズ周辺や底部)が温かくなります。
しかし、分解画像を見ると、SoCにはヒートシンクが適切に配置されており、熱暴走によるシャットダウンの報告は比較的少ないです。放熱設計は許容範囲内と言えますが、直射日光の当たる窓辺や、通気性の悪い棚の中に設置する場合は、熱のこもりに注意が必要です。
9.3 ソフトウェア品質・安定性
ここがReolinkの唯一の弱点とも言えます。機能追加のスピードが速い反面、バージョンアップ直後にバグが発生することがあります。
- ハードウェアリビジョンの複雑さ: 同じ「E1 Zoom」という商品名でも、製造時期によってハードウェアバージョン(IPC_566とIPC_561など)が異なり、使える機能(ペット検知の有無など)が異なるケースがあります 24。これはユーザーを混乱させる要因であり、購入前に最新スペックを確認する必要があります。
- アプリの接続性: 2025年に入ってからのiOSアプリのアップデートで、接続速度が低下したという報告がRedditなどで散見されます 9。Android版やPCクライアント版は安定していますが、iOS版については今後のアップデートでの改善が待たれます。
10. 評判・口コミ:ユーザーの声とエンジニアの解釈

市場の声を分析し、技術的な背景と照らし合わせます。
10.1 肯定的な意見:ここが評価されている
- 「画質がとにかく綺麗」: 5MP/8MPの高解像度とNovatek製ISPのチューニングが評価されています。「夜間でも白黒にならず、カラーで見える(ColorX技術搭載モデル)」といった声も増えています 12。
- 「サブスクなしでここまでできるのは神」: SDカード運用やFTPアップロード機能が、ランニングコストを嫌う層に深く刺さっています。特にITリテラシーの高い層からは、「自分のデータを自分で管理できる」点が絶賛されています。
10.2 否定的な意見・トラブル:ここが注意点
- 「Wi-Fiがつながらない」: Reolinkは5GHz帯に対応していますが、5GHzは障害物に弱いため、カメラとルーターの間に壁が複数あると接続が不安定になります。また、メッシュWi-Fi環境下でのバンドステアリング(2.4Gと5Gの自動切り替え)でうまく接続できないケースがあります。固定IP運用やSSID分離などのネットワーク知識が必要な場合があります。
- 「ペット検知が誤検知する」: 「クッションを猫と間違えた」「ロボット掃除機をペットと認識した」などの報告があります 26。これは画像認識AIの宿命ですが、Reolinkはアプリ内で「感度」や「対象サイズ」を細かくチューニングできる機能を提供しており 28、ユーザー側での調整がある程度必要です。
11. セキュリティとプライバシー:エンジニア視点の「対策」
「中国製カメラは覗き見される?」という懸念に対して、技術的な事実と対策を述べます。
11.1 P2P通信とUIDの仕組み
Reolinkは「UID(Unique ID)」と呼ばれる識別子を使って、ルーターのポート開放なしで外部(外出先)からカメラに接続できるP2P(Peer-to-Peer)機能を提供しています。
これは非常に便利な機能ですが、過去(2020年頃)にはセキュリティ研究者により、P2P通信の一部プロトコルにおいて脆弱性(CVE-2020-25173など)が指摘されたことがありました 29。
しかし、Reolinkはこの指摘に対して迅速に対応し、ファームウェアのアップデートでHTTPS化や暗号化の強化を行っています 30。現在出荷されている製品では、デフォルトでTelnetなどの不要なポートは閉じられており、セキュリティレベルは向上しています。
11.2 エンジニアが教える「鉄壁のセキュリティ設定」
Reolinkをより安全に使うために、以下の設定を強く推奨します。
- 初期パスワードの変更: これは必須です。推測されにくい、英数字記号を混ぜた長いパスワードに変更してください。
- 2段階認証(2FA)の有効化: 最近のアプリ・システムアップデートで、アカウントに対する2FAがサポートされ始めています。これを有効にすることで、万が一パスワードが漏れても不正アクセスを防げます 31。
- UID(P2P)の無効化(上級者向け): もしご自宅にVPNサーバー(TailscaleやWireGuardなど)を構築できる環境があるなら、カメラ設定で「UID」を無効化することをお勧めします 32。これにより、Reolinkのリレーサーバーを介した通信を完全に遮断し、VPN経由でのみアクセスするように設定できます。Reolinkは、こうした「メーカーのクラウドを切る」設定がユーザー側で可能である点も、他社製品にはない大きなメリットです。
- ファームウェアの定期更新: 自動更新機能もありますが、定期的に公式サイトのダウンロードセンターをチェックし、最新版を手動で適用することが、脆弱性対策の基本です。
12. まとめ

Reolinkは、**「香港資本・深セン開発」という、現代のハードウェア製造の王道を行くメーカーです。
その正体は、怪しいスパイウェア企業ではなく、「エンジニアリングリソースを製品機能とコスパに全振りした、技術志向のハードウェアベンダー」**です。
作り込みの甘さ(アプリの挙動やFWバージョンの複雑さ)は多少ありますが、E1 Zoomのような「光学ズーム搭載・サブスク不要・ローカルAPI開放」という尖った仕様のカメラを、この価格帯で提供できるメーカーは世界中を見渡しても他にありません。
- 「完璧なサポートや100点満点のアプリ体験」を求めるなら: 高価でも国内メーカー(Panasonicなど)や、Amazon Ringなどを選ぶのが無難です。
- 「多少のクセはあるが、技術的に尖った高性能な目(カメラ)」を安く手に入れたいなら: Reolinkを選ぶのが正解です。
ペット見守りという用途において、画質とズーム性能は「安心」に直結します。出先から愛犬の寝顔をズームで確認し、「ああ、ちゃんと息をしているな」と確認できる安堵感。その体験を提供してくれるハードウェアとして、Reolinkはエンジニアの私としても自信を持っておすすめできる選択肢の一つです。
この記事が、あなたの大切な家族を見守るための「目」選びの参考になれば幸いです。以上、ろぼてくがお送りしました。

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